心のケア行う「臨床宗教師」増加、がん患者女性「気持ち軽くなった」…東日本大震災で機運高まり
医療現場や被災地などで心のケアを行う「臨床宗教師」が、増えている。高齢化社会で病気や死と向き合う時間が長くなる中、精神面の負担を減らす存在として期待されている。(安楽泰人)
「『生きたい』と『死にたい』というように、両方の気持ちを抱えて生きるのも個性です」
10日、青森県弘前市内で開かれた乳がん患者の集会。日蓮宗・法永寺(五所川原市)の住職、小山田和正さん(54)は穏やかに語りかけた。
この日は県内各地から患者14人が参加し、小山田さんの死生観の話に耳を傾けた。参加した弘前市の女性(70)は「普段は感情が思い通りにまとまらないので、話を聞いて『そうそう』と共感することばかりだった。気持ちが軽くなった」とほほ笑んだ。
小山田さんは2020年3月、「日本臨床宗教師会」が設けた臨床宗教師の資格を県内で初めて取得した。現在は弘前大病院(弘前市)で月1回、がん患者や家族と面会し、悩みを聞くボランティアも行う。「自分から話すことは少なく、聞き役に徹することも多い」と、相手の言葉に真摯(しんし)に耳を傾ける姿勢を大事にしているという。
臨床宗教師の養成の機運が高まったのは、東日本大震災でキリスト教や仏教の宗教者が被災者のケアを行ったことがきっかけだ。翌年の12年には東北大で養成講座がスタート。18年に全国組織の日本臨床宗教師会が認定資格制度を創設した。
同会によると、県内で資格を取得したのは20年3月時点で小山田さんのみだったが、現在は4人に増えた。今夏、資格を取得した曹洞宗・大安寺(むつ市)の副住職、長岡俊成さん(49)は、「死後の供養だけでなく、その人が生きている間も支えたい。医師や看護師に言いにくい悩みの受け皿になることができればいい」と話す。
ただ県内では、臨床宗教師の認知度は高いとは言えない。大切な人を亡くした悲しみに寄り添う「グリーフケア」と呼ばれる取り組みの概念が浸透することも、臨床宗教師の活動拡大では重要となる。