入込数減の危機感に立ち向かう福井県あわら温泉、変革はデータ把握で「観光の見える化」から、若手経営者にエリアの取り組みを聞いてきた
個人型温泉ホテルとして自社マーケティングの必要性
個人客特化型温泉ホテルへのシフトで、働き方、流通、客層ターゲット、施設などを変革してきた。その中で、大きく変わらざるを得ないことも出てきた。それは、マーケティングの考え方だ。 大手旅行会社を通じた集客では、施設側は事実上マーケティングは必要なく、下請け的な立場で、求められる商品を作ればよかった。しかし、大手旅行代理店との関係を絶った以上、自身でそれをやるしかない。八木氏は「自分たちで集客しなければならなくなると、まずマーケットの構造を理解せざるを得ない。代理店がいない中で、マーケットに対して感覚を研ぎ澄ませていかないと、立ち行かなくなるんです」と話す。 この考え方が、のちに福井県観光連盟の実証事業「FTAS」への参画に繋がっていく。 八木氏はまず、あわら市が公表する入込数のデータを注視するようになる。「すると、毎年入込数は減っている。これからも人口減少で右肩下がりだろうと想像できるんです。そこで、コロナが来て、ガクンと下がった。その急減をコロナのせいにして、新幹線が来れば、V字回復するだろうと思っていた節がありました」。 しかし、そこで八木氏は「人数でマーケットを見るのは違うのではないか。やはり、単価など色々な変数を見ていかないと、エリア全体がマイナスになるのではないか」と考えたという。 ホテル八木では、個人客特化型温泉ホテルとして、コロナ禍に思い切って価格を2倍程度上げた。八木氏は「まわりから『どうやって単価を上げたんですか』と聞かれますが、もう、やってしまうほかない」と話す。その結果、その価格に相応する個人客がついてきたという。また、価格に相当するサービスを求めて、今では年に2回宿泊する常連も出てきた。
宿泊施設の予約データをエリアとして掴む
データの重要性は認識するも、行政からのデータは、過去の結果を整理したもので数ヶ月前のもの。リアルな宿泊実態とはギャップがある。そのギャップを解消し、先の見通しの仮説を立てるために、ホテル単独ではなく、芦原温泉旅館協同組合として、福井県観光連盟のデータプラットフォーム「FTAS」に参画することを決めた。それまで、あわら温泉では賑わい創出の仕掛けを色々と行ってきたが、宿泊客の街歩きにつながっていない実態があったことから、エリアで考え直す必要性を感じていたからだ。 FTASの肝はデータのオープン化。各種データを収集し、それをオープンにすることで、「観光の見える化」を進めるところにあるが、個別の施設が宿泊データを外部に提供することは、手の内を明かすことにもなる。福井県観光連盟では、旅館協同組合に参画を呼びかけたのち、複数回説明会を開き、オープンデータ化の意義を説いたという。 2023年3月に福井県観光連盟から声をかけられ、7月には参画を決めた。そのスピード感について、八木氏は「皆さん、やはり将来の危機感は持っていたんだと思います」と振り返る。現在、組合会員15施設のうち10施設が参画。ほぼエリアのデータを網羅的に掴める体制を整えた。 具体的には、参画施設の個人情報を省いた予約状況を抜き出し、予約人数だけでなく、単価や稼働率のデータを見える仕組みを構築した。これによって、数ヶ月先のデータが読めることから、「さまざまな仮説を立てたエリアマーケティングが可能になる」と八木氏は期待をかける。 例えば、あわら温泉近辺でイベントの開催が予定されている場合、宿泊予約データをオープンにすれば、そのデータは街中の飲食店にとっても価値の高い情報となり、それに合わせたプロモーションを展開すれば、街歩きにもつながる可能性が出てくる。 また、データからはリアルタイムでの旅行者の動きが分かる。例えば、昨年9月下旬に芦原ゴルフクラブで日本女子オープンゴルフが開催された時、宿泊にはほとんどつながらなかったという結果がデータから判明した。八木氏は「(データから)ゴルフファンは日帰りが多いことが分かった。因果関係が全て見える」と、曖昧さを排除したデータの堅実性に信頼を置く。 八木氏は「あわら温泉への入込数が減っているのは肌で感じているんですが、どうすればいいのか分からない時に、データというものが一つの道標になる」と話す。