たしかに納得せざるをえない…なんと「この地球のすべてが取り込まれている」フライトシミュレータの、じつは「予想外だったユーザー」
ゲームが生み出す「デジタルツイン」の可能性
デジタルツインとしてのMicrosoft Flight Simulatorがもつシミュレーション性やデータを活かしたいという依頼も、山のように寄せられているという。 「2020年版を公開すると、あらゆる分野の企業はもちろん、政府機関や科学研究機関などから連絡がありました。『このデジタルツインを使ってなにかをしたい』というのです。正直にいって、少々圧倒されるほどでした」 ニューマン氏はそう笑う。「各依頼には慎重に対処しており、こうした協力関係についてはあまり公に話してはいない」としつつも、次のような事例を教えてくれた。
物流企業の関心とは?
「物流の企業からは、海に関するシミュレーションを依頼されることが多いです。波の高さに基づいて、必要な燃料などを計算するためです。政府はしばしば、列車の影響分析にフライトシミュレータを使用したいと考えています。どのくらいの騒音を出すのか、列車の経路から知るためです」 また、自動運転の実現を見据えて、自動車にフライトシミュレータを搭載したいと考えている自動車メーカーとの協力も進めているという。 「彼らは『ユーザー自身が自分で運転しなくなる“未来の車”とはなにか』、そして、『自動運転車に乗っているあいだに実際に何をするのか』を理解しようとしているのです。他にも、石油の探鉱をしている企業では、地理的・地質学的に特定の流出パターンがどうなるかに興味を抱いています」(ニューマン氏)
「コアな顧客」に集中する
ニューマン氏は「可視化という意味では、おそらく他のどのツールよりも優れている」と、フライトシミュレータの可能性を評価する。 とはいえ、現時点ではゲーム以外への応用を全力でおこなっている……というわけではないようだ。 「正直なところ、私たちは、コアな顧客であるフライトシミュレータのファンに集中しています。他のことを考える前に、まず1つのことをしっかりこなしたい。 ただ、デジタルツインの概念とそこでできることは、明らかに人類にとって有用であるのは間違いないでしょう」(ニューマン氏) Microsoft Flight Simulatorの次なる進化がどこへ向かうのか。今後も注目を続けたい。
西田 宗千佳(フリージャーナリスト)