浦和サポが呆気に取られてブーイングを忘れた伝説の企画「メーカブー誕生祭」。担当者が「間違っていた」と語った意外過ぎる理由
2023年4月23日は、ある意味、Jリーグの歴史に残る日となった。等々力陸上競技場(現・Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu)で開催された、2023シーズンのJ1リーグ第9節 川崎フロンターレ対浦和レッズ戦の試合前。川崎Fのクラブマスコット「カブレラ」と陸前高田市のマスコット「たかたのゆめちゃん」の間に誕生した「メーカブー」がお披露目された。浦和サポーターがしばらくブーイングをし忘れるほどあっけにとられたことは大きな話題となった。「メーカブー誕生祭」という“奇祭”はいかにして誕生したのか。当時川崎Fで本イベントの責任者を務め、現在はカナディアンプレミアリーグのパシフィックFCでブランディング業務に従事する、田代楽さんに話を聞いた。 (インタビュー・構成=野口学、トップ写真=アフロ、本文写真提供=田代楽)
浦和サポーター呆然。試合前、突然ピッチ上で始まったメーカブー誕生祭
スタジアムの大型ビジョンに、紙芝居風の映像が流される。 ――夫婦となったカブレラとたかたのゆめちゃんが、陸前高田の海岸沿いを散歩していた。思い出話に花を咲かせていると、突然海から放たれた光が「奇跡の一本松」のてっぺんで輝き始めた。光はゆっくりとふたりの元に降りてきて、腕の中に収まった―― サッカーの試合前に流れるには違和感だらけの映像が終わるや否や、今度はピッチ上に違和感のある動きが見える。100人ほどのゴスペル隊が、映画『天使にラブソングを2』の主題曲として知られる「Oh Happy Day」を歌い、手拍子をしながら行進。上空には“何か”を運ぶドローンが浮遊している。ドローンはゆっくりと下降し、赤ちゃんのマスコットが姿を現す。陸前高田市市長の佐々木拓氏が、優しく抱きかかえ、「たかたのゆめちゃんの“め”、カブレラの“カブ”からとって(中略)、陸前高田の特産のめかぶのように大勢の人に愛される願いを込めて、メーカブーと名付けよう」と宣言。こうしてメーカブーは多くの人たちにお披露目されたのだった。 この違和感だらけの時間に、多くの浦和サポーターは困惑した。「いったいこれは何だ」「私たちは何を見せられているんだ」。通常であればホームチームの演出にブーイングで応えることの多い浦和サポーターだが、この時ばかりは多くがあっけにとられてしまった。大きなブーイングが聞かれたのは、セレモニーがほぼ終盤に差し掛かったころだった――。 「完全に想定が外れました」 当時を振り返り、そう話すのは「メーカブー誕生祭」の責任者、田代楽さんだ。すでにクラブを退職しており、当日はアメリカ西海岸のカフェからその光景を見ていた。 「そもそもプランが間違っていたということなのかなと」 あれだけ話題となり、今やメーカブーは川崎Fサポーターのみならず浦和サポーターからも愛される存在となった。にもかかわらず、田代さんはこのセレモニーを“成功”とは捉えていないという。いったいどういうことなのだろうか――。 その真意をひも解く前に、「メーカブー誕生祭」に至るまでの経緯をたどりたい。