タッチパネルを導入しないキッチンABC 3代目が大切にする“昭和感”
従業員インタビューから生まれた「みんな笑顔になる」
ところがいざ働いてみると、「キッチンABCの魅力はマニュアル化されていない、アナログで昭和的なオペレーションや雰囲気だと知りました」と、稲田さんは話します。 画一的ではない心の込もった接客、オープンキッチンから漂ってくる食欲をそそる香りなども含めた雰囲気です。常連客の多くは、味はもちろん、このような空気感を求めて来店しているのだと言います。 一方で、従業員が明確に意識していたわけではありません。そこで稲田さんは、このような店の魅力を具現化し、ホームページなどで発信していこうと考えます。 一人ひとりの従業員にインタビューを行い、店の魅力やメニューの特徴などを聞いていきました。すると、言葉や表現は違っていても共通している根幹が見えてきました。「みんな笑顔になる」との思いです。 稲田さんはこの思いを会社の理念とし据え、それまではなかったホームページも開設。商品開発や値段設定などにも生かしていくことを決めます。 従業員同士の仲がよく長く働く従業員も多いため、店のオペレーションは特に問題ありませんでした。一方で、店舗同士の連携があまり取れていない、情報共有が課題だと感じていました。 そこでLINEを活用し、全体グループ、店長グループ、若手メンバーを集めたグループなどを開設。店舗間でのコミュニケーションの醸成や、他店へスタッフを応援に行かす際などにLINEを活用することで、迅速かつ効率的な情報共有や指示ができるようにしました。
タッチパネル式のオーダーシステムはあえて導入しない
多くのチェーンで導入が進むタッチパネル式のオーダーシステムは、導入しないこととしました。理由は「いつものメニューで」「今日も元気そうですね」といった、客がキッチンABCに求める、アナログ昭和の接客がなくなってしまうからです。 一方で、従来の紙伝票では閉店後に毎日、メニューごとや全体の売上などを記帳する業務が発生していました。集計したデータの活用も進んでいませんでした。 そこで、データの集計や活用はデジタル・効率化した方がよいと考え、Airレジを導入。閉店後の労働時間短縮はもちろん、新しいメニューを考える際の構成や値段設定の分析が容易にできるようになりました。 「キッチンABCさんは値段が安すぎる。実はこれまで、お客さんから何度も言われていました。ただ、どの商品をどの程度値上げしても大丈夫なのか。より好まれるメニュー構成はどうなのか、など。これまではデータが不足していたため、何となく行っていました。Airレジを導入することで、意思決定が明確になりました」 実際、2024年3月に値段やメニューを改定し、メニュー表も刷新しました。というのも、以前のメニュー表は料理名をテキストで表記しただけのものだったからです。 常連客は問題ありませんが、初めての客が「オリエンタルライスって何?」と戸惑うケースが少なくなかったからです。一方で、これは以前からですが豚汁は意図的に「味噌汁」とだけ表記しています。 まさに店の根幹。一般的な味噌汁だと思って食べた客が驚き、笑顔になる。そのような体験を演出したいとの思いからです。 もうひとつ、従業員のインタビューを通じて、「舌ではなく、脳が美味しさを覚える味」との店の魅力も把握していました。その言葉をそのまま表したような、シズル感を全面に感じるメニュー表としました。 同時に、人気メニューが生まれた理由や歴史などもあわせて盛り込んだポスターも作成。秘伝のタレがキッチンABCの味の決め手であると同時に、創業来変わっていないことを、一見の利用客にも伝わるようにしました。