世界で「予想」が覆された2016年 重大ニュースで振り返る
2016年は世界で事前の予想を覆す大きなニュースが駆け巡った一年でした。その中には今後の世界情勢に影響を与えそうな大きな出来事もたくさんありました。国際政治学者の六辻彰二氏に重大ニュースを選んでもらい、今年を振り返ります。 【写真】英のEU離脱、米のトランプ現象……「内向き志向」は世界の潮流になる?
【1】トランプ現象
10月8日、米国で大統領選挙が行われ、共和党のトランプ候補が民主党のクリントン候補を破りました。「米国第一」を掲げ、「米国を再び偉大な国にする」ことを主張する一方で、外国人をはじめ女性や性的少数者への差別的な発言が物議をかもしながら、最終的にトランプ氏が当選したことは、世界に大きなインパクトを与えるとともに、貧困、格差、人種や宗派に基づく差別、対テロ戦争への厭戦感情など、米国社会に蔓延する閉塞感と、「強いリーダー」への渇望を印象付けました。 トランプ氏の大きな方針は、「世界全体との付き合いを絞る」ことです。経済面では、米国企業が海外進出を加速させたことが、米国の中間層を弱体化させたと批判。国内の雇用確保を前面に打ち出しています。これは1990年代以来、米国自身が推し進めてきたグローバル化にブレーキをかけるものです。これに関連して移民、中でもイスラム教徒や中南米出身者(ヒスパニック)の流入を制限する主張も、ヒトの移動を自由化してきたグローバル化と相反するものです。 その一方で、トランプ氏は「世界における米国の役割」も減らす方針です。米軍の負担が大きいという理由から、同盟国に応分の負担を求め、在日米軍の駐留経費の見直しについても言及。同様に米軍の負担の大きさから、対テロ戦争に地上部隊を派遣することに否定的な一方、イスラム過激派「イスラム国」(IS)対策でロシアと協力することも厭わない立場です。 これらの方針は、世界の秩序を形成するためのコスト負担を拒絶するものです。つまり、良くも悪くも米国が世界を主導する「超大国」であることを放棄し、「飛び抜けて大きいが普通の国」になることにつながります。これは米国と対抗する勢力、特に中ロやイスラム過激派の活動領域が広がることだけでなく、各国がこれまで以上に生存競争のなかで「自助努力」を求められることをも意味しており、世界は大きな転換点を迎えたといえます。