世界で「予想」が覆された2016年 重大ニュースで振り返る
【2】シリアのIS拠点アレッポ陥落
12月15日、内戦が続くシリアで、ロシアやイランの支援を受けるアサド政権は北部アレッポの制圧を宣言。アレッポはイスラム過激派「イスラム国」(IS)の拠点で、シリア最大の激戦地でした。これに先立つ10月17日には、米国や有志連合の支援を受けたイラク軍が、イラクのIS拠点モスル攻略のための総攻撃を開始。2014年6月に「建国」を宣言したISとの戦闘は、大きな節目を迎えています。 しかし、アレッポ陥落はハッピーエンドを約束するものではありません。政府軍による攻撃の被害は民間人にも及び、国際赤十字社によるとアレッポから3万5000人以上が避難しました。多くの民間人が巻き添えになったことは、既に深刻化しているシリア難民問題をさらに加速させかねません。その上、苛烈な攻撃によってアレッポで多数の犠牲者が出たことを背景に、12月19日には駐トルコ・ロシア大使が殺害されるなど、報復の連鎖は止まりません。 さらに、アレッポ陥落はシリア内戦の終結も意味しません。シリア内戦はアサド政権、IS、そしてアサド政権ともISとも敵対するクルド人などの反政府勢力の、三つ巴の様相を呈しています。これらの反政府勢力は、アサド政権と対立する欧米諸国から支援を受けてきたこともあり、政府軍やロシア軍から攻撃対象となってきました。政府軍によってアレッポが陥落したことは、アサド政権の正当性を固める要素ですが、反政府勢力や欧米諸国はこれに危機感を強めており、シリアをめぐる対立は続くものとみられます。
【3】英国のEU離脱決定
6月23日、EU離脱の賛否を問う英国の国民投票で、離脱派が勝利しました。 1992年に発足した欧州連合(EU)は、それまでにないレベルで地域統合を実現させました。域内でのヒト、モノ、カネの移動は基本的に自由。その一方で人権、環境保護、食品の安全基準に至るまで、EUのルールが各国の法律に影響を及ぼします。 ただし、それは逆に各国の裁量の余地を狭めるもので、特に2008年以降はギリシャ債務危機やシリア難民問題など、統合しているが故に波及してきた問題が相次いだことで、各国で反EU感情とナショナリズムが噴出。この背景のもと、もともとヨーロッパ屈指の経済大国でありながら、EUの主導権を独仏に握られ、EUに消極的な意見が多かった英国は、その急先鋒となりました。 英国のEU離脱の決定は、大きな波紋を呼んでいます。EUという5億人市場に進出機会のあるロンドン市民や若年層ほど反対派が多かったことから、離脱派が勝利したとはいえ、その賛成票は全体の52パーセント。国民投票は、英国の分裂を浮き彫りにしました。 さらに、国民投票の結果は英国経済の先行きを不透明にすると同時に、英国が抜けることはEUにとっても大きな経済的損失になります。その上、EUからの離脱を決定しながらも英国政府がEUとの「特別な」関係を求めていることに、他のEU加盟国は反発。英国の国民投票をきっかけにヨーロッパの足並みが乱れることは、世界全体の経済や安全保障にも影響を及ぼすものとみられます。