強盗に入られたら、どこまで反撃していい? 94年前にできた「盗犯等防止法」が定める正当防衛の基準
闇バイトなどを実行役に使った強盗事件が相次いでいる。もし強盗に押し入られた場合、私たちにはどこまでの反撃、防御ができるのか、気になるところだ。 刑法の特則である「盗犯等防止法」は、被害者が現在の危険を排除するためであれば、強盗や窃盗などの不法侵入者を殺しても罪に問わないと規定している。 条文だけみれば「斬り捨て御免」のバイオレンス感漂う法律だが、なぜこんな特別法が生まれたのか。そして実際の事件ではどのように運用されているのだろうか。(ジャーナリスト・角谷正樹) 【警察庁幹部が異例の呼びかけ】「警察は相談を受けたあなたやあなたの家族を確実に保護します。」
●東池袋の強盗返り討ち事件でも盗犯等防止法を適用
強盗が押し入った先で被害者の返り討ちに遭って死亡する事件は、最近では昨年(2023年)3月に東京で起きている。 東京都豊島区東池袋のマンションにある会社事務所兼社員寮に5人の男が点検業者を装って押し入り、経営者の40代中国人男性と30代女性の手足を縛り、現金約110万円とノートパソコン5台などを奪った。その際、強盗犯の1人でモンゴル国籍の20代の男が中国人経営者から反撃され、はさみで首を複数回刺されて死亡した。 警視庁は昨年12月、強盗を死亡させた中国人経営者について、殺人容疑の上、盗犯等防止法に基づく正当防衛として不起訴にするべきだとの付帯意見をつけて書類送検している。
●緊急立法のきっかけとなった「説教強盗」
盗犯等防止法(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律)は、1930(昭和5)年に帝国議会に急きょ立案され、同年成立・施行された。制定の目的は、当時世間を騒がせた「説教強盗」などの強盗事件続発による社会不安に対処することにあった。 「説教強盗」こと妻木松吉は、1926(大正15)年から4年間にわたって東京周辺を荒らし回り、1929(昭和4)年に逮捕されるまで65件の強盗と30件の窃盗を繰り返した。 押し入った先で金品を奪った後、たばこを吸いながら被害者に「お宅の戸締まりは弱い」「犬をお飼いなさい」などと防犯の心得を説く大胆不敵な犯行で恐れられ、「説教二世」「説教三世」といった模倣犯まで出現。新聞で連日大きく報じられ、犯人逮捕につながる情報には懸賞金もかけられた。 礫川全次著「サンカと説教強盗」によると、「説教強盗」の命名は、当時この事件の報道で活躍した朝日新聞記者・三浦守によるものという。 三浦は事件の取材中、ある刑事が「説教強盗はサンカではないのか」と漏らしたのを聞く。サンカとは、かつて山奥や川原などを漂泊しながら生活を送っていた人々のことで、警察用語では「山窩」と書き、野盗集団のようなニュアンスでも使われていた。 実際には妻木は左官工で、サンカ出身ではなかったようだが、刑事のひと言がきっかけとなって三浦はサンカに興味を抱き、のちにサンカ小説の第一人者・三角寛として知られるようになる。 妻木は1929(昭和4)年2月、侵入先に残した指紋が手がかりとなって逮捕され、無期懲役刑に処せられたが、1947(昭和22)年に仮釈放で出所。その後は各地で防犯に関する講演をしていたというから、根っからの説教好きだったのだろうか。1989(平成元)年に87歳で死去している。