強盗に入られたら、どこまで反撃していい? 94年前にできた「盗犯等防止法」が定める正当防衛の基準
●正当防衛の成立要件を緩和
昭和初期の強盗事件多発をきっかけとして制定された盗犯等防止法。 その1条では刑法36条の特例として、強盗や窃盗に対する被害者側の正当防衛の成立範囲を拡大している。 1条1項は、 (1)盗犯を防止しようとするとき、または盗品を取り戻そうとするとき (2)凶器を持ったり、門戸や塀を乗り越えたり壊したり、鍵や鎖を開けたりして人の住居などに侵入する者を防止しようとするとき (3)ゆえなく人の住居などに侵入した者や、要求を受けても人の住居などから退去しない者を排斥しようとするとき -の三つの場合に、自己または他人の生命、身体、貞操に対する現在の危険を排除するために犯人を殺傷したときは罰しないとしている。 さらに1条2項では、上記の三つの場合には、自己または他人の生命、身体、貞操に対する現在の危険がなくても、行為者が恐怖,驚愕(きょうがく)、興奮、ろうばいによって現場で犯人を殺傷したときは罰しないと定めている。
●実際の事件ではどう判断しているのか?
実際の事件への適用例はどうか。過去の報道をもとに確認してみたい。 水戸地検は2004年1月、水戸市内の土産物店で盗みに入ったとされる男性を取り押さえる際に首を圧迫して死亡させたとして重過失致死容疑で書類送検された元同店会長の男性について、盗犯等防止法に基づき、不起訴処分にした。<朝日新聞2004年1月7日など> また、2002年3月、大阪市住吉区のマンションに窃盗目的で侵入したとみられる無職男を包丁で刺殺したとして殺人容疑で送検された会社経営者の男性について、殺意を否認したことから大阪地裁は傷害致死容疑に切り替えて捜査をしてきたが、同年5月、盗犯等防止法に基づき不起訴処分としている。<産経新聞2002年5月2日など> 以上は不起訴処分となった事例だが、無罪判決が出た事例もある。 福岡市で1999年7月、元会社員男性が自宅に押しかけてきた知人の首を絞め死亡させたとして殺人罪に問われた事件で、福岡地裁は2000年3月、無罪判決を言い渡した。 裁判長は「深夜に突然自宅に侵入され、蹴られて左目が見えなくなった被告が恐怖を感じ、慌てたのは当然」とし、さらに「大柄で体格差のある被害者から極めて強度の暴行を一方的に受け、被害者を押さえ続けなければ反撃される恐れがあった。やむを得ない行為だった」とし、盗犯等防止法の適用を認め、正当防衛が成立するとした。<毎日新聞2000年3月23日など>