『虎に翼』、優三さんとの別れ、花江ちゃんの涙、梅子さんの助言…語り尽くせぬ名場面
感動もイライラも含めて愛おしいドラマだった
三淵嘉子さんの史実記事、福田和子さんの記事などを担当した編集者でライターでもある安藤由美さん。 【安藤由美さんが選ぶ、忘れられない、印象的だった場面】 1)昭和20年7月、疎開している寅子と花江の元に、父親の直言が尋ねてくる。悲痛な表情で一言、「直道が……」と力なく告げたとともに、花江が泣き崩れる(第9週) 思い出しても涙が出てしまいます。義父の直言が最後まで言葉にしなくとも察してしまった花江ちゃんの表情……。当時の人たちは、こういったどうしようもない悲しみにも直面しながら生きていたのだ、ということを無言で表現され、花江ちゃん役の森田望智さんの演技力を超えた姿に本当に涙しました。そして、夫・直道と一緒に写る結婚写真を愛おしそうに震える指で触る花江ちゃん。さらに、その花江ちゃんの姿を見て、戦死の知らせが来ていない寅子がそっと夫との写真を仕舞うという場面は、とても繊細で、丁寧に悲しむ心を描いていると思いました。 2) 終戦後、夫・優三の戦病死を知り、失意の中、新しい「日本国憲法」を知った寅子が奮起。家族のために学業を捨てて一家の大黒柱になるという弟・直明に「男も女も平等なの。男だからって、あなたが全部背負わなくていい。そういう時代は終わったの!」と言い切る場面(第9週) この場面に関しては記事を書かせていただいたのですが、7年前に亡くなった父と直明が重なりました。父はほぼ直明と同じ世代で、家族のために働くことを選択し、大学進学を諦めました。戦争は人が亡くなること、亡くなった家族の悲しみはもちろん、それだけではなく、命が助かっても様々なものを諦めたり、捨てた人たちがいたことがきちんと描かれていました。直明が学業を諦めず、進学し、教師になったことは救いでした。亡くなった父にも観てほしかったドラマでした。 3) 病に伏せっている多岐川幸四郎の元に、寅子や小橋、稲垣ら、家庭裁判所の懐かしいメンバーが集まった。法務省作成の少年法改正要綱を多岐川に渡すと、問題点について最期の力を振り絞りながら自分の少年法に対する思いについて語り始める(第24週) とにかく、多岐川を演じる滝藤賢一さんの演技がすごかった。今も少年法に関しては議論が絶えず、未成年でも厳罰化を求める声はあるけれど、実際に多岐川のモチーフになった宇田川潤四郎さんや寅子のモデルである三淵嘉子さんのような方々が、愛を持って若者たちを更生させようと頑張ったことで、今があるのだなと知った。もちろん、未成年の犯罪もこの事態とは変化し、凶悪化している部分もあるけれど、多岐川が目を見開きながら涙を浮かべて言い放った「非行少年の更生のため、愛を持って実務に携わる我々は…強く望む!」は心に刻む言葉だった。 【安藤由美さんが感じた『虎に翼』の魅力】 好きな場面がもうひとつあるのですが、寅子が司法試験に受かり、記者会見で質問された場面(第6週)での発言でした。福田和子さんに記事を書いていただいたときに、記者会見での寅子の発言の全文を掲載したのですが、寅子の憤りは、納得することばかりで今の時代もまったく変わらないと感じました。『虎に翼』は女性の問題ばかりクローズアップされる、といいう意見もあったけれど、改めて見返してみると、女性問題だけでなく、男性の問題や戦争で起きた問題など、世の中の未だ解決できない問題にフォーカスしてくれた作品だったと思う。 ドラマはすべてがスッキリ楽しめたわけではなく、エンパワーメントをもらえる日もあれば、モヤモヤする回もあれば、寅子と気持ちが異なって憤りを感じる回もあった。でも、それを含めて、関わりたくなる、寅子や寅子の周りの人たちの動向を毎朝知りたくなり、人と語りたくなるドラマだった。一言でまとめるならば、自分にとってとても愛おしいドラマだったと思う。 みなさんは『虎に翼』のどんな場面が思い出されるだろうか? 総集編とともに、今一度、寅子と寅子を取り巻く人々に思いをはせてみてほしい。
FRaU編集部