谷口智則さん「かいじゅうのすむしま」インタビュー 災難は誰のせい? 現実で起きている問題、考えるきっかけに
かいじゅうの住む島に大雨や日照り、煙害など、さまざまな災難が降りかかります。住民たちは、かいじゅうのしわざに違いないと考えますが……。『かいじゅうのすむしま』(アリス館)は、自然災害や人的災害、さらには戦争など、現実の出来事を想起させる絵本です。作者は今年、絵本作家デビュー20周年を迎えた谷口智則さん。作品に込めた思いを伺いました。(文:加治佐志津) 【画像】「かいじゅうのすむしま」中身はこちら
敵ではなく、優しいかいじゅうを描く
―― 住民たちに怖がられ、島に身を潜めて暮らすかいじゅう。住民たちは、島に降りかかる困難をかいじゅうのしわざだと考えています。でも実はかいじゅうは、島に大雨が降れば大きな傘を差してやり、日照りが続けば大きなじょうろで雨を降らせてやるという、優しい心の持ち主。かいじゅうのキャラクターは、どのようにして生まれたのでしょうか。 コロナ禍の時期、僕らは何と闘っているんだろう?と思ったのをきっかけに、かいじゅうの絵をよく描くようになりました。最初は僕らの前に立ちはだかる、見えない敵の象徴として描き始めたんです。でもだんだん花束を持っているかいじゅうや、誰かに傘を差してあげるかいじゅうを描くようになって。敵ではなく、みんなを守る優しいかいじゅうとして描いた方がいいなと思うようになったんですよね。そんな時期に編集者さんから「かいじゅうの絵本を描いてみませんか」とお声がけいただいて、この絵本の構想につながっていきました。 最初に思い浮かんだのは、大きな傘のシーンです。息子がまだ5、6歳の頃のことなんですが、ニュースを見ていたら、僕が以前イベントで行ったところが大雨の被害に遭っていると報じられていました。息子に「ここ、前に行ったところだよ」と伝えると、息子が「もっと大きな傘があったら、全部守れるのにね」と言ったんです。それを聞いて、いつかそんな大きな傘を絵本で描きたいなと思っていました。それで、かいじゅうが大きな傘で島全体を大雨から守るという場面を思いついたんです。 ―― 谷口さんの作品は、サルやキリン、ゾウなど、いろいろな動物が賑やかに登場する絵本が多いですが、『かいじゅうのすむしま』の主な登場キャラクターはかいじゅうだけ。住民たちは文章には出てくるものの、描かれてはいません。 今回、住民たちの姿はあえて描きませんでした。住民は人間かもしれないし、動物かもしれない。読者の皆さんの想像にお任せしようかなと。島に住むかいじゅうについては、昨年、美術館「えき」KYOTOで展覧会をしたときに、京都駅の上の方から見える山々がまるでかいじゅうのように見えたので、そこからイメージして描きました。 この本が出版された直後、イベントで島根県の隠岐諸島に初めて行ったんですが、まさにこんな感じの島で驚きました。知夫里島の赤壁はまさにかいじゅうのような迫力で。不思議なご縁を感じましたね。