谷口智則さん「かいじゅうのすむしま」インタビュー 災難は誰のせい? 現実で起きている問題、考えるきっかけに
平和への祈りを込めて
―― 何日も降り続ける大雨を見て、「こんなに おおあめがふるのは かいじゅうのしわざだと おもった」と住民たち。かいじゅうは大きな傘で島全体を大雨から守りますが、住民たちは雨がやんでも「かいじゅうのおかげだと きづかなかった」。住民たちがかいじゅうを誤解したまま、お話が進んでいきます。 早い段階で「しわざ」と「おかげ」というフレーズが頭にぱっと降りてきたんです。うまく使えたら面白いなと思って、「しわざ」と「おかげ」の繰り返しをストーリーに盛り込みました。 表紙や冒頭のかいじゅうは、怖いのか優しいのかわからないような表情で描いています。どちらかわからないままページをめくっていく方が、ドキドキ感があるんじゃないかなと。大雨や日照りなどの災難が起きるシーンでは、本物のかいじゅうの他に、住民たちが想像する悪いかいじゅうの姿をシルエットで表現しました。僕はいつも絵を黒い紙に描くんですが、このかいじゅうのシルエットは、紙の黒をそのまま残して使っています。 ―― 物語の中盤では隣の島からミサイルが飛んできて、戦争が始まってしまいます。重苦しい場面がしばらく続きますが、どんな気持ちで描きましたか。 本当はこんなシーンは描きたくないんですが、このぐらい描かないと伝わらないのかもしれないと思うようになって、平和への祈りを込めて描きました。戦争がどこか遠くで起こっている他人事ではなく、今も現実に起きていることなんだと考えてほしいし、絵本がそのきっかけになればいいなと思っています。 戦争のシーンを描いている間はやっぱり気分が沈みましたが、そうでないと、こういう色の絵は描けなかったでしょうね。このシーンは普段使っていないような毒々しい感じの色をと考えて、濃い紫色を絵本で初めて使いました。最初から最後までずっと島とかいじゅうの絵が続くので、ラフを見せたときに編集者さんから単調にならないかと心配されたんですが、場面ごとでかいじゅうの色も背景色もがらっと変えたので、飽きずに見ていただけると思います。 ―― 重々しい戦争のあと、静まりかえった島のシーンを挟んで、希望に満ちたラストが待っています。 このラストは最初から決めていました。これが描きたくて描いたってくらい。ストーリーは裏表紙まで続いているので、最後まで見てもらえたらうれしいです。 僕は大阪の四條畷市で生まれ育って、今もそこでギャラリーカフェをやっているんですが、四條畷市には龍にまつわる伝説があるんです。昔、日照りが続いて雨乞いをしていたら、龍が現れて雨を降らせてくれた。龍は頭と胴と尾の3つに割かれ、それぞれの場所に寺が建てられたそうで、四條畷市には龍尾寺というお寺があります。龍は架空の生き物ですが、昔から災害などがあると、こういった物語を信じることで、きっとみんな救われてきたんですよね。昔は口伝えでの伝承だったと思うんですが、物語の力の強さを感じました。 自然災害や戦争を前に、自分に何ができるんだろうと考えたとき、僕にできるのは物語の力を使って思いを絵本にして、それを届けていくことだなと。イベントで全国各地に出向いたり、大阪で自分の店を開いたりしているのもそのためで、日本だけでなく、世界中の子どもたちに絵本を届けていきたいなと思っているんです。もうすぐ開催される大阪万博でも、参加させていただく企画があるんですが、これも世界の人たちに向けて絵本を届けるいい機会だなと思って。絵本を通じて、子どもたちが夢や希望を受け取ってくれたらと願っています。 <谷口智則(たにぐち・とものり)さんプロフィール> 絵本作家 1978年、大阪府生まれ。金沢美術工芸大学日本画専攻卒業。2004年『サルくんとお月さま』で絵本作家としてデビュー後、フランスやイタリアなど海外で数々の絵本を出版。雑誌や企業広告、商品パッケージ、店舗デザインなど、絵本以外のメディアでも幅広く活動中。主な作品に『100にんのサンタクロース』『サルくんとバナナのゆうえんち』(文溪堂)、『ゴリラのくつや』(あかね書房)、『ワニのワッフルケーキやさん ワニッフル』『カメレオンのかきごおりや』(アリス館)などがある。 https://tomonori-taniguchi.com/
朝日新聞社(好書好日)