戸田市の不登校生の居場所づくりが子ども・保護者・教員にも好影響。教室でも保健室でもない”学びの場”、高校内に中学生向けの支援教室など
不登校の中学生向けの居場所を高校のなかに設けた理由
「高校進学はどうなるのか」を心配する保護者もいるだろう。本人も気になるはずだ。 ひとつの取り組みを紹介したい。 それは、埼玉県立戸田翔陽高等学校内に設けた、不登校生徒支援教室「いっぽ」だ。埼玉県教育委員会と戸田市教育委員会とが連携し、不登校となっている戸田市の中学生を対象に、学習支援や体験活動などが行われている。
ちなみに戸田翔陽高等学校は、自分の好きなように授業の時間割を組める高校。大学進学を目指して受験科目を選んでも良いし、「好きなこと」を追求して専門的な授業を多く受けてもいい。いわば大学のカリキュラム選択に似ている。これまで通ってきた小・中学校とは違う体制は、中学生に新鮮にうつるだろう。 「高校生がいきいきと生活する様子を目の当たりにして、高校生活のイメージがわき、勉強のモチベーションが上がる子もいるようです」(菊地さん)
先輩の高校生たちの様子が、生徒たちの心境を変化させるスイッチにも。
ぱれっとルームは児童、保護者、教員にもポジティブな影響
小学校に不登校児童向けの教室と専任の職員を置くことは、現在は他自治体でも行われているケースもあるが、戸田市ではすでに2年間継続的に行ったことで、成果を実感しているそう。 例えば、ぱれっとルームを利用している児童の9割が「楽しい」「やや楽しい」と答えており、保護者のアンケートでは、8割が「子ども達の良い変化を感じた」と答えている。 「不登校児童自体は増加傾向ではありますが、昨年度まで不登校であった児童が登校を開始したり、欠席日数が減少したりしています。なかには3年間不登校だった児童が急に登校できるようになったケースもあります」(菊地さん) また、子どもが不登校状態であることを保護者だけで抱え込むことは、保護者にとっても心理的な負担が大きい。教員にとっても、担任だけが抱え込むのはリスクだ。 家庭とも教室とも違う、第三の場所「ぱれっとルーム」の導入で、「ストレスは減ったか?」の質問に7割超の保護者が「あてはまる」「まあまああてはまる」と答え、8割超の教職員が「肯定的な変化があった」と回答している。 「例えば、ぱれっとルームに行くために決まった時間に起き、規則正しい生活をする。すてっぷにいけば、その場にいる職員と”おはようございます”“いってきます”と言葉を交わす。そういった一つ一つの積み重ねも大切だと考えています」(菊地さん) そうした、この2年間の結果の背景には、言語化はしにくいけれど確実にある、「学校生活を送りにくいと感じている子どもたちへの寄り添い方」が教職員の間で共通認識として共有されてきた結果だと実感しているそう。 「ひと昔前は、“不登校といえば問題行動”のように思われがちでしたが、現在は多種多様です。集団生活が苦手、学力面でのつまずき、発達の問題、家庭での問題――それらが複合的に絡み合っている場合もあります。傍から見れば、同級生と仲良く過ごしており問題ないように思える子もいますし、本人ですら原因が分からないことも多いんです。『これをしたから、効果があった』というのも難しい。まず、「学校に行きたいな」と思えるような魅力的な教育活動を展開すること。そのうえで、さまざまな受け皿を用意し、保護者と学校が協力し合い、その子にあった対策をその都度模索する。その当事者意識は全教職員の間で育ってきたと思います」(伊藤さん) 今後は、戸田市のこうした取り組みが埼玉県全域へも広がるかもしれない。実際に視察も多く、メディアで紹介されることも多いそうだ。 「とはいえ、戸田市で行えることは、どこでもできるはず。子どもたちが、誰一人取り残されずに学べる環境を整えるためには、子どもが学校や社会に合わせるのではなく、学校や社会が子どものニーズにどう合わせていくか、が大切。そのためにはどうすればいいかをずっと模索し続けています」(伊藤さん) ●取材協力 戸田市
長谷井 涼子
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