筒井康隆「常識に反対して、驚かせてやろうというという気持ちが結果的に《不謹慎》に。筆の衰えは感じても、言葉との格闘は続けていく」
◆気になるのは老化していく自分のこと 3年前に亡くした息子が夢に登場する、「川のほとり」という作品も収録しました。これは出版社たっての希望で『ジャックポット』にも収録しましたが、あくまで書いた順だと本作の1篇です。 評論家の蓮實重彦さんがラストシーンに泣いたとおっしゃっていましたが、こちらとしては悲しいから書いたわけではなく、悲しいことを書いて人が泣いたら「してやったり」。それが小説家ですよ。 「プレイバック」と表題作「カーテンコール」は、そろそろ掌篇小説も終わりかなと思い始めて書いた2篇。普通カーテンコールの後にプレイバックなんですが、こればっかりは書いた順だから仕方がない。 「プレイバック」では、『時をかける少女』の和子や「夢探偵」のパプリカなど、自作の人気キャラクターや、作家の小松左京、評論家の大伴昌司ら盟友たちを病床の私の見舞いに来させ、当時のエピソードを披露してもらいました。 「カーテンコール」は、映画スターたちとの座談会形式。昔観た映画のことですから、書きながら懐かしかったですよ。 「夢工房」や「塩昆布はまだか」など老いを題材にした作品も書きましたが、気になるのは老化していく自分のことです。70代で考えていた老いと、今現在、89歳で感じる老いとではまったく違いますね。最近は生きるか死ぬかの問題ですよ(笑)。
◆言葉と格闘してきた人生 実は、妻の光子さんの物忘れが激しくなっていて。もし俺が死んだらえらいことになると思っているので、こちらができるだけ長生きするのが望みです。 先日も深夜に不調を感じて、東京の専門病院に入院していました。心臓にステントという医療器具を入れる手術を無事終え、3日で退院。ついでに肺気腫も持っているので煙草は止められていますが、妻に隠れて1日2、3本吸っています(笑)。 お酒はもう一滴も飲んでいません。退院の2日後、アルコール禁止の指示に気づかず飲んでしまったんです。慌てて医師に聞くと、「少しくらいなら大丈夫。でもまあ飲まないほうがいいですわ」と言う。どっちやねんと(笑)。でもそれ以来お酒がおいしく感じなくて、やめてしまいました。 長年神戸と東京を行き来して暮らしてきましたが、これからはずっと東京にいることになると思います。かかりつけの病院があることと、近くにおいしい店が多いというのが理由ですね。一番の楽しみと言えば、妻との外食ですから。 けれど書くこと自体は生活の一部ですから、ないと退屈すぎる。筆の衰えは感じることがありますよ。しかし、適切な単語が出てこない時に、適当な単語でごまかさないように自分を律しています。もっといい言葉があるはずだと、分類語彙表や類語辞典をひっくり返すのは、若い頃から変わっていません。思えばずっと言葉と格闘してきた人生でした。 文学賞の選考委員も続けるつもりです。素晴らしい作品に出会う機会だから、辞めるわけにはいきません。読むのはつらくなりましたが、候補作が送られて来るなり飛びつくように読んでいますよ。(笑) (構成=内藤麻里子、撮影=岡本隆史)
筒井康隆
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