新しい「複業スタイル」を構築した島根県の「まち」に全国から人が集まる理由[FRaU]
全国から人が集まるまちがあります。これまでにない暮らしのスタイルやユニークな取り組みで「ここに住んでみたい!」という人が急増中。人気の秘密を探りに、いま注目されているまち、島根県・隠岐諸島の海士町(あまちょう)を訪ねました。 これまで過疎化対策として高校の魅力化など独自の取り組みをしてきた海士町。中でもサイドビジネスの「副業」ではなく、マルチワークの「複業」に力を入れ、注目を集めています。
さまざまな仕事を組み合わせた 複業スタイル「アムワーク」
島根半島から北におよそ60km、日本海に浮かぶ隠岐諸島。そのひとつである中ノ島に海士町はある。菱浦港に着くと目に入ってきたのは『ないものはない』という、まちのキャッチコピー。コンビニもショッピングモールも映画館も、都会にあるものは何もない。けれども「生きるために必要なものは、すべてここにある」という意味が込められている。
小さな島ながら、海士町には海の幸だけでなく、名水百選にも選ばれた湧水があり、稲作もできる。半農半漁の島として豊かな資源に恵まれている。「何もない」ことと「すべてある」ことがダブルミーニングになった粋なコピー。ないからこそ良いという価値観と、あるものを活かして暮らしを楽しもうとするマインドがこの島にはあるのだ。そんな海士町には今、全国から若い人を中心に人が集まっている。なぜか。主な理由は、ユニークな働き方ができる制度があること。自然豊かな土地に住んでみたい、島暮らしをしてみたいと願う都市生活者は多い。移住や二拠点生活など、新しい生活のスタイルがスタンダードになりつつあるが、移住した場合、真っ先にネックとなるのは仕事や収入に関する悩みだ。
一方で、過疎化が進むことで学校がなくなり、若者が出て行ってしまい、後継者不足が叫ばれる市町村も多い。後継者がいなければ産業が衰退していき、さらに仕事がなくなるという負のループに陥ってしまう。海士町もそんな状況になりかけたが、近年「マルチワーク」に注目し、多様な働き方を提案することで県内外から人を集めることに成功した。法改正に合わせて形を変えながら、2020年11月には海士町複業協同組合が発足。組合の宮原颯さんはこう話す。 「島にはさまざまな産業があります。多くは、時季によって繁忙期が異なるため、年間の仕事量にばらつきがあり、安定した雇用が難しいという面が問題となっていました。そこで考えたのが、さまざまな仕事を組み合わせた新しい複業スタイルです」 組合では、この働き方を「いろいろな仕事を掛け合わせて、わたしらしく編んでいく」という意味をこめて、「AMU WORK(アムワーク)」と名付けた。アムワーカーは組合に所属する職員であり、組合事務局のサポートを得ながら、組合に所属している事業所で働く。