「死ぬまで働くしかない…」のは自己責任?中高年シングル女性の調査から見えた「生きづらさ」の実態
40歳以上の中高年シングル女性は、経済的に厳しい状況に置かれることが少なくありません。中高年シングル女性の自助グループである「わくわくシニアシングルズ」が2022年に行った調査では、主たる生計維持者であっても、年収300万円未満で働く女性が5割を超えていて、全回答者の7割近くが生活がやや苦しい・大変苦しいと答えていました。中高年シングル女性の抱える悩みや、経済的な苦しさの背景について、同団体代表の大矢さよ子さんにお伺いしました。(同団体には、独身の人、配偶者と離別や死別した人、非婚・未婚の母、離婚を考えている別居中の人もいらっしゃいます) <写真>「死ぬまで働くしかない…」のは自己責任?中高年シングル女性の調査から見えた「生きづらさ」の実態 ■経済的に苦しい中高年シングル女性が多い ――中高年シングル女性はどのような悩みを持っているのでしょうか? 一番の悩みは安定した収入がないことです。私たちが2022年に行った「第二回中高年シングル女性の生活状況実態調査」では、回答者のうち正規雇用は44.8%と半数もいませんでした。世間では「女性は望んで非正規を選んでいる」という意見も聞きますが、私たちの調査で、非正規雇用の人たちに非正規雇用で働いている理由を尋ねたところ、「正規の仕事に就けなかった」という回答が半数以上でした。 収入については、回答者のうち86.1%が主たる生計維持者ですが、正規雇用は47.1%にとどまります。調査前年(2021年)の収入は、年収200万円未満の人は30.4%、年収300万円未満は54.2%と半数以上を占めます。 年収300万円ですと、額面では25万円、手取りでは約20万円です。そうすると貯蓄が難しいので、当然将来不安が起きます。日本の年金制度は、現役時代の給料に連動して老後の年金が決まる仕組みになっていますので、給料が安い=老後の年金も安くなるということ。現役時代の経済的な不安が、将来の不安を呼び起こしている状態です。 こういった状況ですので「いつまで働くか」という質問には「働ける限りはいつまでも」「生きている限り、死ぬまで」と答えた人が全体の65.6%で、非正規や自営業では特に高い傾向が見られています。 ――中高年シングル女性が経済的に苦しくなる背景には、どのような理由があるのでしょうか? 今の40代~50代の人は就職氷河期世代で、学校を卒業して最初の就職の段階で、正規雇用の選択肢がなかった人が多いです。60代以降の人は「男性は外で働き、女性は家事育児をする」という性別役割分業の考えが根強い時代を生きてきて、女性が働くことはあくまで家計の補助という考えだったため、女性が自立する場合でも、正規の仕事はほとんどありませんでした。 国から女性に対する支援は、子育て世代への支援が中心で、中年層への支援が希薄です。雇用面で見ても、女性の正規雇用のピークは20代後半で、M字カーブで再び増えているのは、非正規雇用です。今でも働く女性のうち、半数以上が非正規雇用。正規雇用で働きたくても席がないのです。 女性が一人で生きていくことや、主たる家計の担い手であること、自立した個の存在であることが社会で前提とされていなく、今でも「女性は夫に扶養されればいいから、賃金は安くていい」という考えが残っています。女性の場合、20代・30代から正規雇用で働き続けてきた人は経済的に安定していますが、結婚・子育て・離婚などで一度キャリアが途絶えると、最初からキャリアを積み上げていかなければならないことが少なくありません。私自身も結婚・離婚を経て、再度働くときにキャリアが一番下の地点からやり直しになりました。 ■生活が苦しいのは自己責任ではなく、社会構造の問題 ――生活が苦しいことについて「自己責任」と言われることが少なくないですが、社会の制度や雇用慣行など、構造的な問題があるのですね。 貧困について「自分の選択の結果」と言われますが、基本的に、人はどんな生き方をしても尊重されるべきで、日本の目指す社会がジェンダー不平等の解消、男女共同参画社会であれば尚更当然のことです。生き方についての良し悪しは、他人や社会から判断されるものではないと私は思います。 私も離婚したとき、少しでも愚痴を言えば友人から「だから離婚なんかしなければよかったのに」「自分で選んだのだから仕方ないでしょう」と言われたことはありました。でも当時から保育園が少ないとか、労働時間が長いとか、女性の賃金が安いとか、そういう問題があるから一人で子どもを育てていく大変さがあったんです。シングルマザーで大変な思いをしているのは私だけじゃなかった。自己責任論は社会の問題として解決すべきことを、個人の問題としてすり替えています。 ――大矢さんは今はリタイアされていますが、現役時代は社会保険労務士の資格をお持ちとのことで、専門性の高いお仕事だったはずですが、それでも経済的な不安を抱えてこられたのでしょうか。 5年ほど自営業だけで働いてみたのですが、一人で働くのは合わないと思い、社会保険に入ることができる、社会保険労務士の資格を活かせる事務のパートをメインにして、自営業の社会保険労務士を副業にしました。少なくても安定的な固定収入があることは、子どもを育てるにあたっても、安心につながりました。 人には向き不向きがありますが、資格を取っても、やってみないとわからないこともあります。私は一人で働くことが合わないことを、早く察知することができたのはよかったです。得意ではないことを無理して続けていても、どんどん自分の気が滅入ってしまいますからね。 専門的な仕事を副業にするのは珍しいかもしれませんが、何か困ったときには、既成概念にとらわれないように、方向転換・微調整・試行錯誤をして、軌道修正をしてきました。社会保険労務士として大成していたら、経済的にはもっと潤ったかもしれません(笑)。でも自分が感じてきた仕事の充実感は、自営業メインで社会保険労務士を続けていたら、得られなかったと思います。 ■不安の正体を明らかにする ――シングル女性が直面する問題について、社会課題としての解決を目指しつつも、不安を解消する方法や、今を生きていくための方法について、どんなことをお考えでしょうか。 不安が次から次へと出てきますが、漠然と感じていた不安について、自分は何に対して不安を感じているかを明確にし、解消するためのアプローチをしてきました。 たとえば、収入が少ないときには資格を取った方がいいと思って、自分に合う資格を考えましたし、「自分が介護になったらどうしよう」と思ったなら、介護保険とはどういう制度なのか、どうしたら使えるのか、情報を探すようにしました。 十分とは言えないですし、特に中高年シングル向けに公的な補助は少ないですが、失業したら雇用保険、医療費が高ければ高額療養費制度など、なんだかんだセーフティーネット的な制度はあります。あるものの中で使える制度を知っておくことで、不安を軽くできると思ったので、私は調べてきました。とはいえ、不安を解消する方策がないことも少なくないですけどね。そういうときは、ある意味諦めて、理想通りではないけれども、また別の選択を考えてみることもしてきました。 【プロフィール】 大矢さよ子(おおや・さよこ) 1950年生まれ。わくわくシニアシングルズ代表。「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事なども務めた。編著に『シニアシングルズ 女たちの知恵と縁』(大月書店)。 ■わくわくシニアシングルズHPhttps://seniorsingles.webnode.jp/ インタビュー・文/雪代すみれ
雪代すみれ