新しい「複業スタイル」を構築した島根県の「まち」に全国から人が集まる理由[FRaU]
そのアムワーカー第1号となったのが雪野瞭治さん。東京では、技術や科学の観点からのコンサルタント業務に従事していたが、都会のビルの中で名前も知らない誰かの課題解決のために働くよりも、リアルな産業の現場に身を置いてみたいと思うようになった。そんな矢先、海士町複業協同組合の存在を知る。 「季節に応じていろんな職場に行く仕事だと聞いて、これは僕のための制度だなって思って(笑)。現場をいろいろ見たいと思ってもアルバイトで入るのではちょっと違う。この仕組みであれば、横断的にさまざまな産業に触れられるというのが魅力でしたね」
アムワーカーの働き方は月ごと、曜日ごと、時間ごとのパターンがあり、組み合わせも自由。例えば雪野さんの1年目の働き方はこうだ。1月~3月は定置網漁で漁師に混じって働き、4月~8月は週3回食品を冷凍保存するCAS凍結の事業所で、ECサイトやWEB関連を担当、同時に別会社の企画書作り、9月は1ヵ月休み、10月~12月にはまた定置網漁をする、といった具合だ。 「自分の働き方や暮らし方を探しにここに来たので、その後に続く方たちのためにも、単に仕事をするだけでない、“あり方”みたいなものを優先したいと組合に伝えました」
2年目に入ると、地元の人たちとの人間関係も築けてきて、まちの施設に太陽光パネルを設置し、節電するアイデアなどマネタイズ面でも積極的に働きかけるように。 「まずは電気代を削減できるよう、まちのエネルギーの仕組みを島の中に作ろうと思って。島の収益に繋がるよう、金銭面でできる貢献もきちんと考えていきたいと思っています」
海士町の宿泊施設「Entô(エントウ)」でフードディレクションなどに関わる吉冨なぎささんもまた、新しい働き方に魅力を感じてやってきたひとり。 元々、ホテルや旅館でフード関連の仕事をしていたことから、「Entô」の地域開発事業部に所属し、料理の監修やレシピ作成、日によっては厨房にも立つ。食まわりの商品開発やイベント企画、月に一度は関西にある別の会社でレシピの提案も行う。 写真:海士町の宿泊施設「Entô」のダイニングや関連レストランのフードディレクションをはじめ、土産物の商品開発、イベント企画など食を軸に仕事する吉冨なぎささん。これまでの自分のキャリアを生かすため、また自己実現のためにこの島にやってきた。「働き方の自由度が高く、やりたいことを実現に近づけやすい場所」。新鮮だが限られた素材の中で、新しい食の可能性を見出していく環境にも惹かれた。