<中東対立激化で油価高騰への懸念>日本が短期・長期ですべき石油調達策
イスラエルのイラン報復への懸念
イランのエネルギー動向に関する最大の注目点は、イスラエルによる報復の有無である。仮にイスラエルがイランの石油関連施設、特にハールグ(Kharg)島にあるイラン最大規模の石油輸出港を標的とすれば、国際原油価格が高騰し、世界各国の経済に悪影響が生じる恐れがある。 11月に大統領選挙を控える米国において、燃料価格上昇に伴う急激なインフレは、バイデン大統領の後任となるハリス民主党候補の選挙運動にとって不利な状況になりかねない。また中国の場合も、イランによる中国への原油供給が滞るため、中国は代替調達先の確保を急がざるを得ない。 執筆時点でイスラエルがイランのエネルギー施設を攻撃していないものの、イスラエルの報復への懸念から、ハールグ島の石油輸出港に寄港する石油タンカー数が減少している。ロンドン拠点のメディア「イラン・インターナショナル」は、石油積出量がこの数カ月の平均出荷量の150万bpdから、10月1~10日の期間には60万bpdまで減少したと報じた。 また米通信社「ブルームバーグ」は衛星画像分析から、イランが21年にホルムズ海峡を迂回するため、インド洋側に建設したジャスク(Jask)石油輸出港で原油の積み込みが始まったと報じた。イランはホルムズ海峡の外側の、中国により近い地点で石油輸出を行うことで、中国へのエネルギー供給を維持しようと試みている。
日本がすべきこと
イランを取り巻くペルシャ湾岸地域での情勢緊迫化は、日本にとっても大きな懸念事項である。日本は欧米諸国と足並みを揃えて22 年よりロシア産原油の輸入を控えたことから、ほぼ全ての原油を湾岸諸国から輸入している。原油の中東依存度は 23 年に約 95%に達した。 特に、サウジアラビアと UAEからの原油輸入は総輸入量の約8割にのぼる。両国の原油生産・輸送活動に支障が生じた場合、日本は一時的に石油備蓄で影響を緩和できたとしても、中長期的にはエネルギー危機に直面する恐れがある。 日本における石油の用途は運輸部門や家庭部門に限らず、発電部門でもある。資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」によれば、22年度の発電比率に占める石油火力発電の割合は8.2%で、水力発電(7.6%)を上回る。予期せぬ自然災害が原子力や再エネに及ぼす影響を考慮すれば、脱炭素化の潮流下でも、非常時の予備電源として、石油火力発電を活用する可能性は今後もあり得る。 日本がペルシャ湾岸地域からの石油輸入に頼る現状下、ホルムズ海峡を迂回する輸出ルートを持つ中東産油国との関係が極めて重要となる。UAEのフジャイラ港やオマーンの各港は、ホルムズ海峡のインド洋側に位置する地理的優位性を持つため、中東情勢の緊迫化に伴って同海峡が封鎖された場合でも、石油タンカーが同海峡を通らず、資源輸出が可能である。 この点から、日本は官民一丸となってUAE・オマーンとの関係を多方面で深化させ、そうして構築した信頼関係を土台に、両国からの原油輸入量を拡大させていくことが望ましい。 長期的な観点からは、石油輸入先の多角化が課題となるだろう。たとえば、アフリカの産油国は不安定な地域情勢が続く紅海・アデン湾から離れた場所に位置し、日本向け石油タンカーがインド洋に直接進出することが可能である。 米国からの石油調達の場合も、航行上の懸念が大きい海上交通の要衝(チョークポイント)を避けることが可能である。パナマ運河の通航問題があるが、太平洋を横断することで障害なく石油を日本に届けられる。また、ホルムズ海峡に次いで、潜在的に航行リスクがあるマラッカ海峡や南シナ海も避けられるため、供給途絶リスクをある程度低減できる。 日本の製油所の大部分が中東産原油を処理するように設計されているため、中東以外の調達先に変更することは簡単でない。ただ、ペルシャ湾岸地域への過度な依存は、中東情勢の変動次第で日本の脆弱性にもなり得る。この点を踏まえ、シェール革命によって世界最大の石油産出国となった米国から原油と石油製品の輸入を拡大させることは将来、日本のエネルギー安定確保に大きく貢献すると考えられる。
高橋雅英