<中東対立激化で油価高騰への懸念>日本が短期・長期ですべき石油調達策
2023年10月に始まったガザ危機から1年が経過し、イスラエルと周辺諸国の武装組織間での戦闘が激しさを増している。10月1日には、イランが今年4月以来、2度目となるイスラエルへの攻撃を実施した。 【図表】近年増加するイスラエルの天然ガス生産量 イスラエルからイランへの報復が予想される中、イスラエルおよびイランのエネルギー産業の行方が注目される。中東情勢のさらなる悪化は、国際原油価格の高騰の引き金になる他、ペルシャ湾岸地域から日本へのエネルギー供給の不安定化につながる恐れがある。
イスラエル天然ガス産業への影響
ガザ危機はイスラエルの天然ガス産業に悪影響を及ぼした。イスラエルは2010年代に沖合のガス田開発に成功し、生産量を飛躍的に拡大させ、産ガス国としての存在感を示してきた。23年のガス生産量は24.7BCM(10億立方メートル)を記録し、うち11.6BCM(47%)がエジプトおよびヨルダンに輸出された。 エジプトは22年6月にイスラエルおよび欧州連合(EU)と調印した覚書に基づき、輸入したイスラエル産ガスを液化天然ガス(LNG)施設で液化した後、欧州諸国へのLNG輸出を行ってきた。この点から、イスラエルのガス輸出の増加は、ウクライナ戦争を機にロシア産ガス輸入を控える欧州諸国のガス調達にも寄与している。 しかしガザ危機後、ガス田開発を手掛ける米国のシェブロン社は安全性に関する懸念を理由に、南部沿岸のタマル・ガス田の生産と、イスラエル・エジプト間の「東地中海ガスパイプライン(EMG)」の操業を約1カ月停止した。 さらに24年10月6日、シェブロン社とイスラエルのニューメッド・エナジー社およびレシオ・エナジーズ社の3社は、ガザ戦争に伴う治安情勢の悪化を理由に、リバイアサン・ガス田拡張事業を25年4月まで6カ月中断すると発表した。また、ガザ戦争の進展次第で拡張計画がさらに遅延する可能性を示唆した。
今年6月に承認された拡張事業では、リバイアサン・ガス田の生産量を現在の年間12BCMから21BCMに増加させるとともに、同ガス田から洋上ガス生産プラットフォームへの3本目の海底パイプラインを敷設し、輸出能力を拡大させる計画である。 拡張事業が中断した背景には、イランによるイスラエル本土への攻撃を受け、安全上の懸念がさらに高まったことがある。10月1日にイランがイスラエルに弾道ミサイルを用いて攻撃を実施した後、シェブロン社は予防措置として、リバイアサンおよびタマル両ガス田の生産を一時的に停止した。翌日に生産活動が再開されたものの、イランがイスラエルの軍施設を正確に射止めたことや、イスラエルのミサイル防衛システムによる迎撃が不十分であったことは、ガス田事業継続にとって不安要素となった。 今後、イスラエル沖合で3番目に生産が開始したカリシュ・ガス田の操業も安全性の問題に直面するだろう。レバノンのヒズボラが22年に、イラクのシーア派民兵が23年12月にカリシュ・ガス田への無人機攻撃を試みるなど、同ガス田はイランと連携する武装組織の攻撃対象となっている。 イスラエルの天然ガス産業は貴重な外貨獲得源で、自立的な電力政策を支える要でもあるため、イスラエルを敵視するイランや周辺諸国の武装組織がイスラエルのガス田開発の進展を妨害するような攻撃を活発化させる可能性がある。