発電最大手JERAが、電力取引で「相場操縦」。4年半もルール違反続け、電力ユーザーの利益侵害も
電力業界ではこれまでにも小売販売や市場取引をめぐる不祥事がたびたび判明している。 公正取引委員会は、お互いの営業エリアでの顧客獲得活動を制限することに合意していたとして、2023年3月に中国電力や中部電力ミライズ、九州電力など4社に課徴金納付命令を出した。これを踏まえて電取委は同年6月に関西電力など5社に関して、経産相に対して電力会社に改善計画の提出などを求めるよう勧告を行った。その際に公取委や電取委による調査結果の内容が明らかにされたが、そこでも大手電力会社による不正行為の数々が記されている。
たとえば関電が2017年10月に開催した経営層が参加した会議で配付された資料では次のような記述があったという。 「各社が供給力の絞り込みを行い、需給構造の適正化、ひいては市場価格の適正化を実現することが重要(これにより(中略)新電力を市場から退出させるとともに発電設備を有するわれわれの収益も一定程度改善することが期待)」 つまり、関電では、経営層を含む幹部が市場を操作することで価格をつり上げ、新電力を追い出すことが企図されていたことを意味する。そして電取委によれば、この資料に基づく方針が承認されたという。しかしどのように実行されたかは不明だ。
■罰則めぐり日本と欧米では大きな格差 今回の事案では、行政や取引所の対応にも課題があることが指摘されている。 前出の松久保・原子力資料情報室事務局長は、不正行為に対するJEPXのモニタリング機能の弱さや、電取委が過去の調査で不正を見抜けなかったこと、JERAに対しての業務改善勧告にとどまり、事実上、何のペナルティーもないことなどを問題視する。今回の件について、同情報室は、国際環境NGOであるFoE JAPANや気候ネットワークなどと連名で抗議声明を発表している。
電気事業法は「性善説」に立っているため、大手電力会社に対してのペナルティーがないに等しく、電力取引で不正を働いたとしても厳しく罰する仕組みになっていない。 JEPXの業務規程では、取引参加者に対する処分として、「処分は、事由の重大性に鑑み、勧告、取引の制限もしくは停止、除名の順に適用する」と記されている。しかし、これまでに(相場操縦など)不正行為を理由として取引参加者を処分した事例はないという。
また、過怠金として上限1億円という金額が設けられているが、あくまでも取引所が損害を受けた場合に限られるため、今回のケースは該当しないという。 今回の件でJERAはルール違反を4年半も続けていながら、おとがめなしとなる可能性が高い。アメリカや欧州連合(EU)加盟国、イギリスなどで、相場操縦などの不正行為が発覚した場合に、電力会社に多額の罰金が適用されるのとは大違いだ。 JEPXでの取引価格は、電気料金の計算にもその一部が反映している。つまり不正行為は国民生活にも影響を及ぼす。相次ぐ問題の発覚を機にこれまでの緩すぎる法制度や規制を見直し、罰則の導入などルールの強化を図るべきだ。
岡田 広行 :東洋経済 解説部コラムニスト