恐竜などを絶滅に導いた天体は「炭素に富んだ珍しい小惑星」の可能性が高い
■ルテニウムの同位体比率から天体の正体を特定
Fischer-Gödde氏らの研究チームは、K-Pg境界に含まれる白金族元素の1つである「ルテニウム」の同位体比率を分析しました。原子の中には、同じ元素に分類されるものであっても、原子の重さが異なるものがあります。これが同位体です。原子の重さは化学反応の速度や蒸発・融解のしやすさにわずかながら影響を与えるため、同位体の比率が似ている物質は、同じような環境で物理的・化学的変化を受けたことが推測されます。つまり、同位体比率がどれくらい似ているかどうかで、物質の由来を推定することができます。 Fischer-Gödde氏らは、K-Pg境界に加え、3600万年前から4億7000万年前の間に起きた5回の天体衝突に由来する物質、そして35億~32億年前の極めて古い時代の衝突に由来する物質のルテニウム同位体比率を分析しました。 その結果、K-Pg境界に含まれるルテニウムの同位体比率が最も似ている物質は、炭素が豊富に含まれる隕石「炭素質コンドライト」であることが分かりました。炭素質コンドライトはその名の通り炭素に富んでおり、有機物、水、粘土鉱物などが豊富に含まれていることを特徴としています。炭素質コンドライトを構成する成分は、太陽系の内側のような高温の環境では不安定なものが大量に含まれているため、低温の環境である木星より外側で形成したものであると考えられています。炭素質コンドライトとの類似性から、白亜紀末に衝突した天体は、炭素に富む小惑星である可能性が高いことを今回の研究は示しています。 一方で、比較で分析された他の5回の天体衝突は、ケイ酸塩に富むごく普通の岩石でできた小惑星に由来することが分かりました。これらは火星と木星の間にある小惑星帯に由来すると考えられています。 なお、炭素に富む天体としては他に彗星が挙げられます。衝突した天体が彗星であるとする説は、全体から見れば少数派ながら一部で根強く唱えられていました。しかし今回の研究で示されたルテニウムの同位体比率は、彗星とは全く似ていないことが分かりました。今回の研究結果は、あくまでも小惑星説を支持しており、彗星説を否定しています。