コースは公道、コーナーは4つの交差点!? マン島で行われる旧車レース『プレTTクラシックロードレース』の魅力に触れる
交差点を4回曲がって戻ってくる「ビロウンサーキット」
これらのマシンが走るビロウンサーキットは、マン島の南部・カッスルタウンの公道にある。ごくシンプルにいうと、時計回りに交差点を4回曲がる1周4.25マイル(約6.84km)を走るレースだ。 今回は最終日しか取材できなかったため、コース終盤にあるチャーチベンズと呼ばれる観戦スポットだけの撮影になった。というのもレースが始まると他の撮影スポットへ移動できない(公道はレースのために閉鎖され、移動のためのルートはない)からだ。 しかしこのチャーチベンズはビロウンサーキットでも見応えあるスポットで、その名のとおり「教会の曲がり道」だ。教会の墓地の中を道路がS字状に貫いており、右コーナーから左コーナーへ切り返しするポイントだ。 そして道路と墓地は石垣で区切られていて、とくに歩道がない左コーナーは石垣スレスレを通過することになる。石垣に肩やヘルメットを擦るライダーもいるほどだが、今回はレース序盤から雨天で、雨が上がった後もウェットパッチが残っていたこともあって、そこまで攻め込むライダーはあまりいなかった。
独特の文化「バイクを墓地に停めて、のんびりレース観戦!?」
もうひとつおもしろいのは、観戦客たちはたいていバイクに乗ってくるが、そのバイクを墓地へ駐車することだ。日本人の常識では考えられないことだが、同じキリスト教圏でもドイツ人にとっては非常識なことのようで、「墓地にバイクを置くなんて、イギリス人はなんてクレイジーなんだ!」と興奮しながら喜び笑っていた。 とはいえバイクを駐車したり歩いたりするのはあくまで墓地の通路だけで、墓石の前には駐車しないし、意味なく立ち入ったりもしない。しかし2011年に訪れたときには墓石の前で仰向けに寝転び、昼寝するカップルがいた。まるで「死んでも一緒にいようね」と無言で愛を語り合っているようでもあり、死生観の違いをまざまざと見せつけられたものだ。 教会では紅茶などの飲み物、手作りのサンドイッチやビスケットなどの軽食を割安な料金で販売していて、晴れた日には墓地にシートを広げてピクニック感覚でレースを観戦する人も多い。 ちなみにマーシャルはボランティアでマン島やイギリス、そして世界中からやってくる。マン島TTとは主催者が別なので、プレTTでマーシャルをやるには別個に登録する必要がある(これはメディアも同様)。マーシャルたちも和気あいあいとレースとマーシャル業務を楽しんでいる。 さて、そんなプレTTクラシックだが、レースの模様や結果にはここでは触れない。レース数が多すぎることもあるが、このレースはリザルトよりも観客やマーシャル、そしてマン島が持つ独特の雰囲気を楽しむものだと思うからだ。 そして日本のバイクファンに、世界にはこんなバイクレースもあるということを知ってもらいたいだけなのだ。もしも出場マシンの詳細やリザルトに興味があるなら、プレTTの公式サイトに掲載されているので、そちらを参照してほしい。 マン島というとTTばかりが注目されるし、「世界一危険な公道レース」というイメージが先行してしまっている。たしかにそれも事実ではあるが、イギリスをはじめヨーロッパ各国からやってくるライダー、そしてファンたちは、プレTTクラシックも含むマン島そのものを満喫することを楽しみにしている。 プレTTクラシックは、現代に残るバイクレースの原風景だ。もしもマン島TTを観戦する機会があったら、ぜひプレTTクラシックも観戦できる旅程を組んでもらいたい。それだけの価値があるロードレースなのである。 レポート&写真●山下 剛 編集●上野茂岐