俳優・前原滉 最新主演映画で天国から地獄の脚本家役に「最初はお断りさせていただいたんです」
■お酒を飲んで記憶をなくしたことは…
現在、最新主演映画「ありきたりな言葉じゃなくて」が公開中。前原さん演じる主人公・藤田拓也は、町中華の店を営む両親(酒向芳&山下容莉枝)のもとで実家暮らしを送る脚本家志望の32歳。ワイドショーの構成作家やシナリオ講座の講師として日々を送っていたが、先輩有名脚本家(内田慈)の推薦により、ついに念願の脚本家デビューが決定。浮かれた気持ちでキャバクラを訪れた拓也は、そこで出会った“りえ”(小西桜子)と意気投合。 ある晩、りえと飲んで泥酔した拓也が目を覚ますと、そこはホテルのベッドの上。りえの姿はなく、連絡も取れなくなり…という展開。脚本家デビューが決まり舞いあがっていた拓也は、天国から地獄に突き落とされることになる。 ――お話が来たときはどう思われました? 「最初は主演をやるみたいなことに対して、何か曖昧だったんですよね。自分の中で何か引っかかるみたいな感じで一度はお断りしたんです」 ――これまでに3本の主演映画があるのにですか? 「はい。それまでは多分、来たものに対して『ありがとうございます』という自分だったと思うんです。『作品を背負っています』という感覚があまりなかった状態だったので、それがわからないままやっちゃっていいのかなって思って。主演に関しては、もしかしたらスタンスみたいなのをちゃんと持った方がいいんじゃないか…という時期で。 この話をいただいたとき、背負いきるということがどこまで自分はできるのかなっていうのがあまりわからなかったんです。それまでは『やります。ありがとうございます』だったのが、その状態でお仕事を受けるということって、その作品に対してすごい失礼なんじゃないかっていう風に思ったんですよね」 ――渡邉監督は前原さんを念頭に置いて脚本を書いていたと伺いました 「脚本を書くときに僕の写真を置いていたという話を言って下さって、その熱をすごく感じました。『ちょっとできないかもしれません』と言った後も、『いやいや、やってほしいんです』ってすごく根気強く言ってくださって。それでやらせていただくことに。そのおかげですね。そうじゃなかったらほかの人になっていて、後悔していたと思います」 ――監督の熱意で出演されることになっていかがでした? 「実話を基にしたということにまずびっくりしました。実体験と完全に一緒ではないんですけど、『こういうことが本当にあるんだ』って。あとは、映画っぽくないって思いました。 でも、それは多分、渡邉さん(監督)の表現方法なんですかね。もともと報道・情報番組とかをされていて、そういうところがうまく噛み合うといいなと思いながら脚本を読んでいました。 そのためにどういう風に話し合いを進めていったらいいかなっていうのは思っていて。映画っぽくないというのは、裏を返したら別に悪いことじゃなくて、そういう物語の見せ方もきっとできるし、映画という手法を使ってそれをやるのもきっと面白いだろうなって思っていました」 (C)2024テレビ朝日映像 ――拓也は自分の脚本が初めてドラマに採用されて舞い上がってしまいます 「自分の名前が初めて脚本で出たのがうれしくて、放送前の台本をりえに渡してしまう。絶対にやってはいけないことなんだけど、ある意味、まっすぐですよね。まっすぐでいいなと思っちゃったりもするというか。そのまっすぐさは、僕はもう持ってないので(笑)」 ――前原さんは、初めて映画の主演が決まったときも舞い上がっちゃって…ということはなかったのですか? 「舞い上がるという感じではなかったですね。『うれしい!頑張ろう』くらいで。だから、拓也のまっすぐさって羨ましいです。僕は抑えちゃうのかもしれないです。マネジャーさんとかはわかっていると思いますけど、多分自分の中では小踊りとかしているんですよ(笑)。 ただ、そのパフォーマンスはしないだけで。舞い上がっていることを表に出すことが恥ずかしいと思っているのかもしれないです。深層心理みたいなので言うと、うれしいということをあまり人に共有してこなかったので」 ――そうすると正反対の拓也役は演じていて新鮮に感じたでしょうね 「はい。羨ましいなと思っている部分がどこかにあるかもしれないです。浅はかだなって思っている自分と、結構表裏一体かもしれません。確かに楽しいっていうか。結果良くないことにはなりますけど」 ――最悪の場合はせっかく撮ったドラマも放送できなくなってしまうということで、ひとりで何とか収めようと必死になりますが、どんどんひどいことになっていきます 「そうなんですよね。自分が喜んで伝えたことが相手にとってどうなるかってわからないじゃないですか。その人からしたら、自分もそれをやりたかったなって思うかもしれないし、不快に思うかもしれない…とか、色々考えると、うれしくてもあまり表に出さないで自分の中で収めるのが一番平和的かなって思いますよね」 (C)2024テレビ朝日映像 ――ご自身が拓也のように飲み過ぎて記憶がなくなって…ということになったらどうします? 「お酒を飲み過ぎて記憶をなくしたことはないので、まず前提としてならないんですけど(笑)。でも、拓也のようなことになったら、やっぱり正直には言えないかもしれないですね。『やっべえ、何とかごまかせないかな』って、本当にギリギリまでジタバタしちゃうかもしれないです。 早めに相談した方が絶対にいいのはわかっているんですけど、行動は結局一緒かもしれない。追い詰められたときに自分で何とかしようとしてめちゃくちゃ空回るとか。ギリギリまでバレないように…って思いながら、ああなっちゃうかもしれないですね」 ――驚きの展開で面白かったです。中華屋さんを営む両親役の酒向芳さんと山下容莉枝さんのキャスティングも絶妙でしたね 「はい。お二人がすごく支えて下さいました。酒向さんと山下さんは、そこに居てくれるだけで無理しなくていいというか。本当のお父さんとお母さんのような空気にしてくれていたので、とても楽をさせていただきました。自然に家族という感じになれていましたね」 ――2024年はどんな年でした? 「変わらず、順調にさせていただいていました。2024年は、それこそスタッフさんとか、自分を使ってくださる方々とかに対する意識というよりも、世の中に対する意識みたいなのを広げようと思った1年かもしれません。 僕の中では作品を見てくださる方とかは、ふわっとしていたんです。自分のことを応援してくれる人なんていないよなって思っていたんですけど、そうじゃないっていう風に思わなきゃなって。見てくださる方に対しての意識をちゃんと向けようって最近思い始めたんです。 今までは役得なんですけど、ポジション的にも多分『見てくださる方がたくさんいるからあなたを使いました』という人間ではなくて、『この役割を全うしてください。お客様を集める人は他にもいらっしゃるから、そうじゃないところで、作品の軸じゃない駒、部品になってください』というところだったと思うんです。 でも、そうじゃないところで、この映画とかもそうですけど、ちゃんと人も集められるようになっていきたいなって思ったのが2024年の総括かもしれないです。そうしたら、もっとやれることも増えるし」 ――そういうときに主演映画が公開というのは大きいですね 「そうですね。それに関してもそうだと思います。もっと人を集められる人だったら、もっと広げてあげられるのになって。だから、作品を背負うということは、それもあるなって思えないとできないかもしれないって思っています」 どんな役柄にも見事にハマる演技の幅の広さで知られている前原さん。2025年1月にドラマ「119 エマージェンシーコール」(フジテレビ系)、3月放送予定のドラマ「水平線のうた」(NHK)に出演することも決まっている。今後の活躍も楽しみ。(津島令子) ヘアメイク:ゆきや(SUN VALLEY) スタイリスト:矢島世羅
テレビ朝日