「出前」を止めたRedTail 暗号資産市場で暗躍、コンピューターのリソース狙う
闇バイトや個人情報の抜き取りなど被害が深刻化するサイバー犯罪。個人を狙うものだけではなく、企業や官公庁を狙った犯罪も後を絶たない。今年10月26~29日、料理のデリバリーを展開する「出前館」がシステム障害を理由にサービスを停止した。暗号資産の計算を行う「RedTail」というマルウエア(悪意のあるプログラム)がサーバーに侵入していたことが原因だ。RedTailの目的は、機密情報や個人情報ではなくコンピューターのリソース。暗号資産市場の裏で暗躍するマルウエアの被害がサービス停止という実害として顕在化した例は珍しいという。 【グラフでみる】99%が海外から サイバー攻撃の前兆ともなる脆弱性を探索する不審なアクセス件数 ビットコインに代表される暗号資産は、世界中の有志による取引情報の計算によって成り立つ。計算をいち早く終えた協力者には、報酬としてその暗号資産が付与される仕組みで、計算は鉱物を掘り出す工程になぞらえ「マイニング(採掘)」と呼ばれている。 計算のスピード競争に勝ち抜き、報酬を手にするには高い能力のコンピューターが必要となる。第三者のネットワークに侵入してコンピューターに居座り、計算を肩代わりするマルウエアは、ビットコインが注目を浴び始めた15年ほど前に出現した。 出前館をサービス停止に追い込んだRedTailは、暗号資産「モネロ」のマイニングを行う。セキュリティー会社「トレンドマイクロ」の調査によれば、日本では春頃から感染が報告されるようになった。こうした不正なコインマイナー(マイニングをするプログラム)は被害の全貌がつかみにくい特性を持っている。 機密情報を抜き出したり、暗号化したりするランサムウエアは、そのデータをたてに〝身代金〟を要求するため、犯行を相手側に通告する必要がある。一方、不正なコインマイナーはコンピューターの「処理能力」が目的で、侵入者は名乗り出る必要がない。出前館のケースでも、サービスの運用を監視するチームがサーバーに高い負荷がかかっていることに気が付き、問題が発覚した。 取引履歴が開示されているビットコインと違い、モネロは匿名性が高く攻撃者の特定が困難となる。不正なコインマイナーによって機密情報が流出するような実害が出る可能性は低く、感染しても公表しないケースがあるとみられる。トレンドマイクロによると、不正な「採掘」行為は、深刻な被害をもたらすランサムウエアなどの侵入につながる「穴」があることを意味している。