失敗しても支持される「吉村洋文」とは何者だったのか「敵多き普通の男の苦悩」
結果は出ているのか
側近の大阪維新の会幹部の横山英幸(取材当時は府議、現在の大阪市長)は、2020年からの3年間、すなわち新型コロナ禍に直面して以降、吉村が「大阪の医療を(20年の)ニューヨークのような状況にしてはいけない」と、知事室で繰り返し語る姿を何度も目にしてきた。大阪の感染状況は何度も急速に悪化し、府が描いたシミュレーション、それも最悪の想定に沿って重症患者数は膨れ上がった。通常の医療体制は完全に崩壊した。途中からブレーンを刷新し、インターネットやメディア上で強い発信力を持った忽那賢志(感染症専門医、大阪大学教授)らを迎え入れても何回も危機に見舞われた。 障害者施設が実質的に病院化し、施設内のアウトブレイクに職員らが必死に対応する事態が各所で相次ぐ。「大阪の新型コロナの死者数は多い」ことは確かな事実で、多くの批判の声が上がった。 最初期の流行時には会見の中で唐突に、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、イソジンをはじめとするポビドンヨードを含むうがい薬を推奨した。ところが医学的根拠が薄弱だと多くの批判にさらされた。当時の会見映像はSNS上に転がっている。私権の制限に慎重だったはずの吉村が途中から「社会不安、社会危機を解消するため、個人の自由を大きく制限することがあると、国会の場で決定していくことが重要だ」と踏み込んだが、そこでも批判が巻き起こった。 それ以外にも失敗はある。 コロナ対策以外にも目を向けてみよう。維新の目玉政策である「大阪都構想」への賛否を問うた2度目の住民投票に吉村を前面に押し出す形で踏み切ったが、圧倒的優位という事前の予測を覆され、結果的に反対派の逆転を許した。都構想敗北は、維新という政党のアイデンティティーを揺るがすような危機ですらある。しかも、新型コロナ流行の中で住民投票を強行したのだから、吉村への批判がもっと強まってもいいはずだ。 「失敗」についての吉村の言い分は、連日報道されてきたが、「政治は結果責任」という彼らも好む格言に従うならば、肝心なところで結果は残せていない。 それでも2020年12月末、朝日新聞の郵送による世論調査の結果によれば、依然として新型コロナ対応で最も評価の高い政治家として名が挙げられており、以降も少なくともリーダーとしての顔は保ち続けている。ちなみにこの調査で圧倒的に引き離されているとはいえ2位につけた東京都知事・小池百合子への期待感の乏しさに比べてみるといい。新型コロナ禍はその後も収まることはなく、幾度となく緊急事態宣言に追い込まれたが支持は揺らぐことはなかった。 まだ2期目を目指すかどうかは不透明という時期にあっても、府政を長く取材してきた在阪ベテラン記者は冷静に見ていた。 「大阪では野党の自民党、それに大阪では根強い人気がある辻元(清美)さんが先頭に立つ立憲、組織票のある共産も支持できるような統一候補を立てたとしても、吉村さんに選挙で勝つというのは並大抵のことではない。単に 期目だから強いというわけではなく、潜在的なニーズを掬い取っている。大阪府民は維新にされている、というのは東京や他地域の見方。選挙はそんなに単純なものではないし、大阪の有権者だけが騙されているという話に根拠はない」 かくして2023年の統一地方選を圧勝した吉村体制は2期目へと歩みを踏み出した。 維新と吉村が重なるという私の主張は2021年衆院選に続き、2022年参院選でも日本維新の会(維新)が議席数を大きく増やしたときの反応からわかる。衝撃的な安倍晋三元首相の銃撃事件が伝えられるまで、参院選の数少ない選挙の注目点だった。結果、維新は改選議席を12議席に倍増させ、参院で計21議席に乗せた。伸長を予測するニュースが流れるたびに、人々の反応は大きく三つに分かれていた。第1に伸長を歓迎する熱烈な支持層、第2に熱烈な反対層、第3に可視化されにくいが確実に存在している「積極的に支持もしないが、だからといって拒否もしていない」層である。まさに吉村の選挙戦とそっくりなのだ。 大阪以外のエリアから維新という政党は謎めいて見えることも同様だ。時に自民党に接近し、核兵器について自民以上にタカ派的な発言が飛び出したかと思えば、「改革」を旗印に掲げ、自民も立憲民主党も批判する。維新のキャッチフレーズ「身を切る改革」に賛同する人々の存在は分かりやすい。維新が推し進める大阪都構想、カジノの大阪誘致などもってのほかという批判に共鳴する人々もSNSで多数観察することができる。これらの支持、不支持層は可視化されやすく、主張を並べたとしても、それは吉村にしても、維新に対する感情レベルのぶつかり合いを記述するにすぎない。問いはこう変える必要がある。 すなわち、なぜ吉村は支持され、維新は伸びることになったのか? 「潜在的なニーズ」とは何か? 看板政策である都構想には反対しながらも、選挙では維新の吉村を支持する大阪の有権者の民意──。謎はふくらむばかりだが、強い賛意も反対も目を曇らせる。