先代社長、痛恨のミス…「生前に考えてくれていたら」後継者も泣くに泣けない、相続対策の失敗例【事業承継のプロが解説】
本連載は、事業承継士・中小企業診断士の中谷健太氏の著書『「子どもに会社をつがせたい」と思ったとき読む本』(あさ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
事業用資産を後継者に集中させる
経営者が生前に行っておくべき対策について説明します。まず、相続対策に関してありがちな失敗ケースを2つ紹介しましょう。 〈ケース1〉分割の難しい資産、会社名義にしておけば… 先代社長が所有していた土地を兄弟が半々で相続。その土地の上には社屋があり、会社に賃貸していました。その後、経営にタッチしていない弟が「自分の持ち分の土地を換金したい」と言い出しました。 こうした場合、兄が資金を工面して買い取ることもよく起こります。したがって不動産のような分割の難しい資産は、できるだけ会社に名義を変えておくのが望ましいのです。会社所有にしておけば、会社の株式を取得した後継者が実質的に資産を所有できます。 〈ケース2〉意思の疎通が図れない相続予定者がいるのに、遺言書の準備なし 先代社長(創業者)が急逝して相続が発生。資産としては、自社株式、事業用資産、会社への貸付金、金融資産がありました。遺言書が作成されていなかったため、妻、長男(現社長)、次男で遺産分割協議を開始。 次男は家族への反発などもあって早くから家を出て、10年ほど話をしていません。現社長である長男は、自分が事業用資産のすべてを相続する案を弟に提示しましたが、弟はこれを拒否し、法定割合での相続を主張しました。 結局、法定割合に基づいて、事業用不動産の一部や会社への貸付金などを弟に相続させざるを得ませんでした。会社は、弟へ債務(先代社長の会社への貸付金)を返済したために資金繰りが逼迫。また、弟が事業用不動産の買取りを要求したため、会社に悪影響を及ぼしました。 たとえ、長男にすべての財産を相続させる旨の遺言を作成した場合でも、妻と次男の遺留分を侵害することはできません。妻は文句を言わないとしても、次男が遺留分を主張した場合、原則としてこれを拒むことはできません。 相続予定者のなかに意思の疎通が図れない人物がいたにもかかわらず、十分な生前贈与や遺言の作成がなされていない場合は、後継者に事業用資産の集中ができなくなる事態に陥ってしまいます。
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