先代社長、痛恨のミス…「生前に考えてくれていたら」後継者も泣くに泣けない、相続対策の失敗例【事業承継のプロが解説】
相続人の遺留分に対応する
「株式や事業用資産を、後継者に集中させたい」と考え、そのために経営者が保有する株式や会社が使用している個人所有の土地などの資産を後継者に相続させるという「遺言書」を書いたとしても、先述したように「遺留分」の問題が残ります。 遺留分とは民法上、最低限保障されている相続人の取り分です。後継者が過大な財産を取得し、自己の取得分が遺留分よりも少なくなった場合には、自己の遺留分に相当する金額の支払いを請求することができます(後継者に対する遺留分侵害額請求)。 また生前に経営者が後継者に財産を贈与していた場合、それが他の相続人に不利益となることがわかったうえで行われた贈与であったときには、その贈与財産も含めて遺留分の計算が行われるので注意が必要です。遺留分は法定相続分とは異なり、遺言によっても奪うことができません。 経営者の財産は自社株式が多くを占めます。後継者以外にも子どもが複数いる場合、後継者に自社株式を集中させようとしても、遺留分を侵害された他の相続人から遺留分に相当する金額の支払いを求められます。その結果、自社株式が分散してしまうなど、事業継続を妨げる場合があります。以下のケースを見てください。 A:社長(相続財産は、自社株式2億円、その他財産5000万円 合計2.5億円) B:長男(後継者) C:次男 Aは、後継者であるBに自社株式2億円を、Cはその他財産5000万円を相続させる考えです。しかしCの遺留分は4分の1あるので、その額は6250万円(2.5億円×1/4)となります。 結果、BはCに対して遺留分を侵害している1250万円の金銭を支払わなければなりません。 この点、自社株式の評価額は現経営者が経営努力によって会社を発展させればさせるほど、評価額が上がります(自社株式2億円が、たとえば3億円にもなる可能性)。評価額が上がった結果、経営者の相続のときに相続財産に占める自社株式の比率が増えてしまい、事業承継で後継者に株式が集まった場合、他の相続人の遺留分を侵害する可能性が高まるのです。 もし、経営者の経営努力により自社株式の評価額が3億円になった場合、この場合、Cの遺留分は4分の1で、その額は8750万円(3.5億円×1/4)となります。遺留分の算定は、相続開始時点(株価上昇後)の評価となりますから、BはCに対して遺留分を侵害している3750万円の金銭を支払わなければなりません。
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