パリ協定は無謀? グレタさん「怒りの演説」への真剣な回答
「電気を使う側」のCO2をどう減らすか?
さて、今度は「間接排出量」の図だ。これは現在の電力構成をベースに発電所でのCO2排出量を、電気を使う側の各部門に割り振ったものだ。目標は80%削減なのだが、あなたならこれを見てどこからどうやって減らすだろうか? 例えば、一番大きい「産業部門」。まあこれは乱暴に言って一次産業(農業や水産業など)と二次産業(工業や建設業など)だ。これを全部日本からなくせば34.7%削減できる。ただし農業も漁業も鉱業も製造業も全部なくなる。 次は「運輸部門」。飛行機、クルマ、電車、船。これらを全部なくすと17.9%削減できる。しかし産業部門と運輸部門を足しても52.6%。全然足りない。 ついで「業務その他部門(サービス業)」だ。スーパーもコンビニも通信も学校や病院もここに入る。これが17.4%。これも全部やめる。すると合計は70%になる。 原発の稼働基数を7倍にしていれば、これに発電分野での削減25%が加味される。そもそもの電気需要も低下するはずなので、多分このあたりで目標はクリアできるだろう。しかし電力構成によるCO2排出削減の効率化があまり進まなかったとすると、次に手をつけないといけないのは、「家庭部門」だ。これが15.6%。日々の生活の中で使っている灯りも冷暖房も調理も全部止めると、総合計は85.6%。ここまでやれば、間違いなく目標がクリアできる。 ちなみに残った中の「エネルギー転換部門」の7.7%とは、発電所が直接的な発電以外に排出するCO2だ。これはなくならない。まあ上述の全ての活動を止めたら電気はあまりいらないだろうから、既存の原発に数基新設を加えるだけで賄えるかもしれない。「廃棄物」はゴミ処理。「工業プロセス」はセメントとか生石灰などの生成の過程で生成されるCO2だ。 つまり、パリ協定の2050年削減目標を達成するためには、現代の我々が生活する上で享受している「文明と科学」をほとんど放棄しなくてはならない。こうしてみると、彼女が求める「解決策」実行後の世界は今の社会とは別物で、地続きではない。もちろんグレタさん自身も学校に行くことはできないし、記者会見をインターネットで配信することもできない。 いやいや、文明の放棄はいくら何でも無理だろうと筆者も思う。それでは温暖化の基準とされる「産業革命以前」はどうだったのか? そこにヒントが隠されていないか検証しよう。