古舘伊知郎も証言「民主党政権時代の圧力」の実態を元産経記者が振り返る
民主党が抵抗している説
ところが、しばらくすると変な噂が聞こえてきた。 「民主党が相当抵抗しているらしい」 「山梨も検査対象に加えようとしたが、検査院の上層部が山梨県は実力者の輿石東(こしいしあずま)氏(民主党代表代行、民主党参院議員会長、参院幹事長などを歴任、元山梨県教職員組合執行委員長)がいるからダメだ、と言ってきた」 おまけに会計検査院の局長が今年度限りで退任するという。会計検査院きってのエースといわれた人物だ。 「定年までまだ何年か残っているはずじゃないんですか? しかもヤミ専従の検査も始まったばかりでは?」 ある人に訊くと、「上」の意向だという。おまけに会計検査院上級職の指定ポストといわれる都道府県の監査委員といった「天下り」もなかった。 この局長は黙って東北の実家に帰って行った。僕は、 「局長、何か圧力があったんじゃないですか」 と訊いたが、黙って笑みを浮かべるだけだった。 2010年度の決算検査報告(2011年秋に公表)にはこう書かれている。 検査対象は、北海道、石川県、鳥取県、沖縄県。 何と20の道府県を検査する予定が4道県に減ってしまっていた。約13億900万円の教職員給与を検査した結果、次のことが分かったという。 北海道では教職員の職務専念義務違反が4年間で172校647人の約703万800円分の給与に見つかった。北海道教職員組合では、図書館などで文献調査をするなどの校外研修をしていたはずなのに、その日は図書館が休館日だったなど、明らかなヤミ研修が59校119人、193回、1429時間分見つかった。 ほかにも校外研修をしていたはずの教諭の成果が出されていなかったりする杜撰なケースが見つかったが、北海道のほかではほとんど見つからなかった。
メディアは無視
面妖なのは、着手時には1面トップで報じた産経新聞を含め、この検査結果がほとんど報じられなかったことだ。尻すぼみで終わってしまった。これほどの重大事を一切報じないというのでは、メディアも教職員組合のヤミ専従に加担しているといわれても仕方がないではないか。 この案件にかかわらず、会計検査院のこの時期の検査は政権に酷く及び腰だったし、不可解な人事が横行した。国税局の鳩山由紀夫首相の生前贈与隠しともいうべき申告漏れの調査も中途半端な感を拭えなかった。 昨年の自民党の派閥パーティー券収入事件に関連して、政権批判をしたいメディアの中には、立憲民主党の小沢一郎衆院議員に意見を聞いて「(パーティー券事件は)まさに権力の思い上がりだ」(2024年1月3日、日刊スポーツ)などと言わせているところもあった。 小沢氏は陸山会事件のきっかけとなった「隠し資産」を週刊誌に暴かれたという過去の持ち主ではないか。 とんだ茶番だと言わざるを得ない。
三枝玄太郎(さいぐさげんたろう) 1967(昭和42)年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1991年、産経新聞社入社。警視庁、国税庁、国土交通省などを担当。2019年に退職し、フリーライターに。著書に『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』『十九歳の無念 須藤正和さんリンチ殺人事件』など。 デイリー新潮編集部
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