「ヒット曲の作り方と幸福の見つけ方の共通点は?」絢香やSuperflyを生み出したプロデューサーの「回答」
四角大輔は、絢香、Superfly、平井堅、CHEMISTRYなど名だたるアーティストをプロデュースしたヒットメーカーだ。 【無料】渋谷QWSでのトークイベントの様子 現在はかねてからの夢であったニュージーランドへの移住を実現し、自給自足の生活の傍ら文筆業を続けている。これまでに『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』(サンクチュアリ出版)、『超ミニマル・ライフ』(ダイヤモンド社)などの著書で、人生の幸福度を上げるための「そぎ落とす思考」について解説してきた。 いまではミニマリスト、デジタルノマドの第一人者として認知されている四角だが、自身は一度も「時代の先を行こうとしたことはない」と言う。 彼がこれまでの人生を振り返って語る、外の声に惑わされない生き方について、そして、自分が本当にやりたいことに気付くための「自分彫刻」の技法とは──。 本稿は、2024年8月に開催したイベント──四角大輔に聞く「毎日のムダを“夢への投資”に変える決断術」での公開インタビューをもとに編集しました。
これまでの人生を振り返って
──まずは四角さんの人生を遡りたいと思います。どのような幼少期や学生時代を過ごされていたのでしょうか。 僕は大阪府の端っこの、里山風景が残る田園エリアで生まれ育ちました。学校嫌い、室内嫌いの自然児でずっと雑木林とか池や川で遊んでいたんです。 でも、高校生になるころには周りの自然は消え、すべて無機質な住宅街になってしまいました。そこから中古のオフロードバイクを買って、自然を求めて旅するようになりました。 大学生時代には中古のバンを買って、バンライフができるように自らキャンピング仕様に改造して、日本中の湖を廻りました。釣り道具や調理道具を積んで車で行けるところまで行ったら、バックパックに衣食住を詰めてひたすら歩き、人がいない湖畔でテント泊をしていました。誰もいないところのほうが魚がよく釣れるから(笑)。 ──そこから音楽プロデューサーのキャリアを歩まれていくとは、なかなか想像がつかないですね……。 学生時代に周りの自然がどんどんと消えていったとき、僕は大人たちにすごく怒っていたんです。大好きな自然を壊す、大人も社会も許せないって。 でも怒っていても何も解決できないと気づき、大学に入って初めて勉強にのめり込みました。映像ジャーナリストになって世の中を変えたいと思ったんです。 就職活動では最終的に当時志望していたNHKに採用されなかったので、面接の練習にと受けて内定をもらっていたソニー・ミュージックに入社しました。 でもそこで、音楽は映像報道と同じかそれ以上に、社会的なインパクトを与えられることを知り、仕事に夢中になります。出世してやろう、稼いでやろうとかいう野望はなく、アーティストたちの血肉である音楽を、必要としている人に届けたい、音楽で社会貢献をしたいという思いだけで働きました。 結果、プロデューサーとして10回のミリオンヒットを創出できたのです。 ──ミリオンヒットを10回再現できたということは、途中で何か方程式を見つけられたのですか。 当時もよく聞かれたのですが、方程式はないんですよ。強いて言うなら、毎回リセットすることです。 1組目をヒットさせたあと、次のアーティストも同じ方法でヒットを狙うプロデューサーは多い。でも、過去の成功体験に頼っても、残念ながら新たなビッグヒットは出せない。社会の風潮も世間の気分は変化し続けるし、どのアーティストも唯一無二ですから、過去と同じ方法は役に立たないんです。 そこで僕は、1組目が売れても、その成功体験を完全リセットして新しいアーティストと向き合うようにしました。今日、参加されている皆さんそれぞれに全く違う人生があるように、アーティストのプロデュースも全員違うべきなんです。 僕のプロデュースは、音楽を始めた理由から家庭環境、人生の夢から死生観まで、アーティストの「内なる本質」と徹底的に向き合うことから始めます。 そのやりとりに最低1年はかけ、その間はメディアからの「外部情報」はまったく入れないようにします。無意識にバイアスがかかって、アーティストの本質を見失わないようにするためです。 ──まるでインタビュアーのようにアーティストの人生を掘り下げていくのですね。 コーチングやカウンセリングにも近いと思いますが、僕は「アーティスト彫刻」と呼んでいます。ヒットメーカーと呼ばれるようになると、新人アーティストたちは「四角さんに任せたら売ってくれる」と期待満々でやってきます。でも僕は「僕は、ヒットの方程式も何の答えも持っていませんよ」と言うんです。相手は「えーっ!」って驚きますよね(笑)。 そこでこう伝えます。「答えはあなたのなかにある。僕には、あなたのなかに眠る、美しい彫刻作品が見える。プロデュースとは、それをそのまま削り出すお手伝いをするだけ」だと。 そこからは対話を通して相手の核心部に近づいていきます。そうすると、「この人はこういう形で世に出るべき」「この人が世に出れば、こういったポジティブなインパクトを人々に与えられる」という、ブランディング戦略の骨格が見えてくるんです。そこで初めて世の中に目を向けます。 人生も同じであるべきです。みんな「外」を見てから自分の人生を考えている。「SNSでバズってるから」「親がこう言うから」「みんなやってるから」「いまこの業界が伸びているから」……。 でもまずは、自分の「内側」を見ないといけない。「自分の内なる声はこれを求めている」とわかったうえで初めて「じゃあ世の中はどうなっている?」と凝視して考え抜き、「外の世界」で起きている事象とコラボして、利用していくのです。 これが当時やっていた「そぎ落とすプロデュース法」です。