【池江璃花子さんインタビュー】バタフライのように自由に
間近に迫ったパリ2024オリンピックへの出場を控える池江璃花子さんが、熱烈ラブコールにこたえてSPURに初登場。のびやかで美しい佇まいと言葉から、健やかな精神と真の強さを学ぶ。 【写真】しなやかな体躯が映える、ミニマムなコットンドレスをまとった池江璃花子さん ※この記事は2024年7月発売のSPUR9月号に掲載したものです。 Rikako Ikee いけえ りかこ●2000年東京都生まれ。2016年リオデジャネイロ五輪で女子100mバタフライ5位入賞。2018年アジア大会で日本人初の6冠に。2019年2月に白血病を公表し、闘病生活を経て翌年8月に実戦に復帰。2021年東京五輪では女子4×100mメドレーリレー決勝進出。横浜ゴム所属。
【池江璃花子さんインタビュー】自然体のまま、光の差す方へ
■3度目の五輪の切符をつかみ、パリの舞台へ 鍛え抜かれたまばゆい健康美で、どんな衣装も凛と着こなす池江璃花子選手。撮影中、スタッフからは感嘆の声が止まらなかった。 「肩を鍛えているので、洋服を選ぶときに気にすることもあるんです。今回は自分の体を存分に生かした撮影ができたということが何よりもうれしかった。普段はカジュアルな服装やジャージなどが多いので、ドレッシーな服やハイヒールを身につけることは、姿勢や目線が変わってテンションが上がりますね。中でも胸もとの開いたドレスは、とても新鮮でした!」 撮影は、100mバタフライでパリ五輪への出場権を獲得した数日後に敢行。日々トレーニングに励み、心身ともに凛々しさを増した池江選手だが、現在の心境、そして競技にかける思いはどんなものだろう。 「3月のパリ五輪代表選考会のときに0.01秒差で突破することができ、正直ほっとしました。とにかくオリンピックに行きたいという一心だったので、今はやっとスタート台に上がれたと思っています。パリでの目標は56秒5。出場するからには決勝に残りたい。オリンピックという緊張感もありますが、最後まで自分を信じ抜くことで、結果がついてくると思っています。選考会でのタイムに満足はしておらず、反省すべき点も具体的に見えてきたので、やるべきことをしっかりとやって本番を迎えたいです」 白血病で長期療養していた彼女は、2020年8月にレースへ復帰し、東京2020オリンピックではリレー種目のみ出場を果たした。その後思うようにタイムが出ず、伸び悩みを感じることも。そこで、昨年の10月から自らを追い込むために、練習拠点をオーストラリアに移した。このままではこれ以上は速くなれないと限界を感じていたからだ。 「昨シーズンは50m種目をメインに練習をしていて、100mを思うように泳ぎ切る体力がまだ戻っていませんでした。オーストラリア行きは、個人種目での出場と、さらなるレベルアップを目指して決断。私自身、半年で人ってこんなに変われるんだなと思うくらい、気持ちも体も成長でき、驚きました。率直に海外のオープンな雰囲気が合っていましたね。日常生活を送っていても、周りの目を気にせずにありのままでいられます。もちろん、一緒に練習をしているトップクラスのチームメイトの存在も大きい。自分より速い選手ばかりなので、練習中も闘争心を駆り立てられ、いいモチベーションでトレーニングができています。とくに(2020年の東京五輪4冠の)エマ・マキーオン選手は病気になる以前からずっと競い合ってきました。今は勝てない状況が続いていますが、またエマに追いつきたい、絶対いつか追い越したい。そういう思いで、一緒に練習に励んでいます。同時に私にとって彼女は、かけがえのない友人です。すごくいい関係が築けていると思っています。また自分よりも強い選手がいることで、『速く泳ぐ』という競泳本来の楽しさを改めて実感しています」 尊敬できる選手が身近にいることが、自然な刺激となってモチベーションに。また、同世代で交流のある日本人アスリートの活躍も元気の源だ。 「バスケ、バドミントン、卓球、新体操、バレー、フィギュアスケートなど、いろんな競技のアスリートと交流があります。でもお互いに忙しすぎて、ちょっと会いたいなと思い連絡を取ってみると海外遠征中で予定が合わない、ということも日常茶飯事です。周りの友人たちが表彰台に立ち、輝いている姿を見ると、とても刺激をもらえます。競泳は競技の特性上、世界の競技人口が多く、なかなかメダルが取りづらいスポーツですが、追いついていきたいなと思います」 オーストラリアの屋外プールでの泳ぎこみで日焼けした肌が、トレーニングの充実さを物語る。そんな彼女の持ち味は、大きなストローク(水中で前進するために腕で水をかく一連の動作)による伸びやかな泳ぎだ。 「泳ぎの技術には、自信があります。ストロークの回転を上げて、速く泳ごうとする人もいますが、私は回転を上げずに1回のキャッチでたくさんの水を捉えて進むことを意識しています。ストローク数を比べるとほかの選手よりも圧倒的に少なく、1回で水をかく量が多いと体力も奪われますが、泳ぎ方の美しさを極めつつ、速さも追求しています。あと、実は腕が長いところも、私の強みです(笑)。最後はタッチの差ですから」 日々のハードなトレーニングを乗り切るために、自身の体とも常に丁寧に向き合っている。 「体調が優れない日や違和感のある日は、小さなことでもすぐにコーチに共有します。でも、トレーニングは基本的にいつも通り進めるようにしています。ちゃんと体調を理解してもらっているうえで、できない中でもまずは一生懸命やってみることが重要かなと。状況によっては、プールから上がり、休む判断をすることもあります。そういうときの最近の楽しみは、大食いをしている人のYouTubeを見ながら食事をすること。たくさん食べている人の動画を見ながら、目もおなかも満たすようなイメージです(笑)。あと、いい匂いのするキャンドルを焚いて、映画を観ることも好き。翌日に余裕があるときは特に、心身ともにリラックスできる時間をしっかりと作るようにしています」 ■逆境を乗り越えた彼女の生き方に、魅せられて 白血病の治療から約5年。私たちの想像を遥かに超える困難を乗り越えた彼女が、再び夢の大舞台へ挑む。力強さと自信を取り戻し、人一倍努力をした池江選手が今目指すものとは。 「アスリートなら誰もがオリンピックでのメダル獲得を目指し、人生をかけて努力をしていると思います。当然、私だって欲しいです。でも努力してもすぐに速くなるわけではないですし、必ずしも結果がついてくるわけでもないと思っています。ただ、パリの舞台には、やり残したことはない、と自信を持って立ちたい。私の最終目標は、後悔なく笑顔で引退すること。いつか競技の引退を考えたときにあれをやっておけばよかったなとか、何かちょっとでも心残りがある状態で退きたくはない。競技生活が充実して幸せだったな、水泳に出合えて本当によかったと思えるそんな日が来るまで、全力で頑張ります」 SOURCE:SPUR 2024年9月号「池江璃花子、そのきらめく魂 バタフライのように自由に」 photography: Masami Naruo 〈SEPT〉 styling: Tomoko Iijima hair: ASASHI 〈ota office〉 make-up: NOBUKO MAEKAWA 〈Perle〉 interview & text: Sayako Ono ※この特集中、以下の表記は略号になります。WG(ホワイトゴールド)