八ヶ岳登山に最適「オーレン小屋」 人と人との「縁」を紡ぐ、おもてなしの心溢れる山時間!
■人とのご縁を大切にする山小屋
オーレン小屋の4代目主人となる小平岳男さんは、地元、茅野市豊平の出身。物腰軟らかな口調で語る穏やかな人柄で、薪ストーブのある談話室で酒を飲みかわしていると、「登山客に山を楽しんでもいたい」という小平さんの思いが伝わってきた。 「2016年から、小屋から硫黄岳まで登ってきた子どもには『登頂証明書』を渡しており、山小屋前でスタッフが証明書を授与すると、見守る登山者からも拍手がおこってほっこりとした雰囲気になります」 登山証明書を渡した子どもは、現在760名におよぶという。きっと、子どもたちには登山が楽しい思い出として心に残っているだろう。 「オーレン小屋ははじめて山小屋に泊まる人が多く、山に登る出発点。無理して登らず、行けたら行くで良いと思う」 と、小平さんは言う。山小屋には絵本コーナーが設けられ「天気が悪ければ、薪ストーブがある談話室で、お父さんのひざに子どもを座らせて、絵本の読み聞かせをしてあげてください」と伝えているという。 「山頂を目指すだけではなく、スモールステップでいいので山を好きになってほしい」 小平さんは、そんな優しさで登山者たちを見守っている。 話し込むうちに、今度は小平さんが4代目を継ぐまでの経緯を語ってくれた。 小平さんによると、創業74年となるオーレン小屋は、もともとは山を管理している営林署の官舎があったところで、それが豊平に払下げされたのだという。 「昔のオーレン小屋は車が入れず、来るまでに時間がかかり(山小屋をやる)、なり手がいなかったんですよ。そこで、戦争から帰ってきていた僕の祖父が手をあげ、山小屋の主人をひきうけることになったんです」 先代の主人は小平さんの叔父が務め、小平さんは30代になってから山小屋のスタッフとして加わった。 「叔父は50年ほど山小屋の主人をしていましたが、2020年のコロナ禍の時期、小屋を閉じると言い出したんです。僕は小屋を閉じると日頃の水切り(メンテナンス)ができなくなり、登山道が荒れてしまうと意見を言い、話し合いを続けましたが、先代はある日突然下山してしまい、その時点で僕が4代目を任されました」。 山小屋の主人となった当初はわからないことだらけの手探り状態。 「最初の冬は水道を凍結させてしまい、春の小屋開きでは凍った地面をツルハシで掘って、水道管に沢水を沸かせた湯をかけた」 山小屋を継ぐ前は、小屋の滞在日数は100日ぐらいだったが、継いだあとは毎シーズン200日くらい小屋にいる。営業日が210日だからほとんど山にいる生活だ。 山小屋を継いでから5年目となった現在は、小平さんの心にもゆとりが見られる。 「コロナ禍の機に働き方改革を行なったところ、いいスタッフに恵まれるようになりました。以前、スタッフは1年しか働きにこなかったんですが、また働きに来てくれるようになったんです。この小屋の神様は“ご縁の神様”なのでそのおかげです」 と、小平さんは談話室に祀られている神棚を見つめた。 「山って不思議でやっぱり最後は神頼みなんですよね」と、小平さんは毎日手を合わせているという。そして、「この小屋でプロポーズして結ばれたカップルも3組いますよ」と笑った。