発達障害の少年とコーヒーの運命的な出合い 家族と見つけた、できること
THE PAGE
15歳の焙煎士・岩野響(いわのひびき)さんは、小学3年生のとき、アスペルガー症候群と診断された。中学に進学したものの、ノートの書き写しができないなど授業についていけず、高校進学は断念した。しかし、響さんには幼少期から並外れた鋭敏な味覚と嗅覚があり、コーヒーの焙煎に没頭。今年春、地元の群馬県桐生市で洋服店を営む両親のアシストを受けコーヒーショップ「HORIZON LABO」をオープンした。今月21日には両親と響さんの葛藤や焙煎士になるまでのさまざまなエピソードを収めた書籍「コーヒーはぼくの杖 ~発達障害の少年が家族と見つけた大切なもの」(三才ブックス)を発売したが、発売前から重版が決定ということで話題を呼んでいる。岩野さん一家を群馬に訪ねた。
小さな手回しの焙煎機が運命を変えた
「コーヒーをいれ始めたのは、中学に行けなくなったころ。両親がコーヒー好きだったり、僕自身、幼少期からなぜか喫茶店が好きなのもありました。日本独自の進化を遂げ、西洋のカフェとはまた違う独特の雰囲気が好きで。そのころはまだコーヒーにハマってはいませんでしたが、店によって味が違うので面白いなとは思っていたんです」 少し恥ずかしそうに視線をそらしながら話す響さんだが、言葉の端々からコーヒーに対する情熱と、それを伝えたいという強い気持ちが感じ取れる。
中2の春、母・久美子さんの知人から譲り受けた小さな手回しの焙煎機が響さんの運命を変えた。コーヒーの焙煎にすっかり魅せられたのだ。基本、独学ではあったが地元桐生の「伊東屋珈琲」 と「大坊珈琲店」の大坊勝次さんの影響を受けた 。あくなき探求に駆られるまま、ネパールのコーヒー農園にも行った。試行錯誤を重ね、ようやく美味しいコーヒーを焙煎できるようになった。現在は通販で、月ごとに焙煎のテーマ、味わいが変わるコーヒー豆を提供している。 「深い味わいがあって、苦いというよりはチョコレートのような甘み、深みのあるコーヒーが大好きで、そこを目指しています。古い喫茶店は、甘みを重視したコーヒーが多いんですよね。まったりできるというか、飲むと心が安らぐというか」 そう言っていれてくれたコーヒーは、まさしく言葉通り、まろやかな甘みが舌の上で転がりながらも芯のしっかりした、深みを感じる逸品だ。それが一陣の風のように通り過ぎ、後味がすっきりしている。