発達障害の少年とコーヒーの運命的な出合い 家族と見つけた、できること
父・開人さんは、響さんがアスペルガー症候群だとわかったとき、やはり不安にさいなまれたという。 「なんとかしないと、って。親は理解できても、世間一般にわかっていただくのは難しいだろうと感じたので、僕としてはなんとか彼(響さん)を社会側に寄せたいというか、『そういうのは世間では通用しないと思うよ』とか、 一般的にはこう思うだろう、みたいな立場で意見を言うようにしていたんです」 一方で母・久美子さんは、障害はしかたのないことなので、その中で響さんができることを模索したいと思ったという。 「普通とは違うんだけど、なにかできることがあるんじゃないかなって。ひーくんができることを、やりやすいことを探していました」
学校に通わなくなってからまもなく、開人さんと久美子さんは、修学旅行に行っていない響さんをフランスへ連れて行った。2年前のことだ。 「パリに行ったんですが、他の国に行ってみると、そこにはそこの常識があって、いろんな考え方があって、いろんな人がいて、日本はそのうちのひとつに過ぎないんだってことがわかるんですよね。いま見てる自分の景色っていうのは自分の価値観でしか見れてなくて、また違うところから見るとぜんぜん違う景色が見えるという」(開人さん) 「パリの蚤の市に、手売りのコーヒー屋さんがいたんです。リヤカーを改装した、お店ともいえないようなお店をやっている男の人がいて。それがいまのイメージにつながっている部分もあって」(久美子さん) 響さんが今年4月にオープンした「HORIZON LABO」も、自宅の和室を手作業で改造した8畳ほどのこじんまりしたお店だ。現在、豆の販売は店舗ではなくインターネットでの通販に限っているが、いまも響さんは毎日ここで、理想のコーヒーを探求し続けている。
「コーヒーは僕の表現する舞台」コーヒーのある暮らしと文化を広めていきたい
「コーヒーとの出合いに、運命的なものは感じますね。僕にぴったりだったのかなって思います。絵もすごく好きで、美術館によく行くんですけど、コーヒーと同じでいろんな味わい方ができて、正解とか不正解がない。音楽も、いろんなジャンルを聞きます。もともとクラシックが好きだったんですが、星野源さんなんかも好きで。毎月焙煎のテーマを変えているので、今度はどう行こうかと考えているときに音楽を聞いたりしています」 そう語る響さんだが、自らの人生にコーヒーをデザインしたように、コーヒーそのものにだけとらわれるのではなく、広くコーヒーの文化を伝えていきたいという。 「コーヒーは僕の表現する舞台。コーヒーのある一日って、いいと思うんです。豆を見る、火をいれる、そういう空間というか、ゆとりがいい部分じゃないかなって。コーヒーのある暮らしを伝え、文化を広める活動をしたい。日本の喫茶文化も、いろんな人に伝えていきたいと思っています」
コーヒーの話をすると限りのない響さん。最後に、自身が感じるコーヒーの最大の魅力を語ってもらった。 「コーヒーって、その場に応じて変わっていく面白い飲み物だなと思っていて。コーヒーはもちろん店の雰囲気も味わう純喫茶があったり、ライトな感覚でいつでもコーヒーが楽しめるスターバックスさんがあったり。そのときそのときで変わっていく。どれも正解がないというか、どれも正解というか。僕自身が”点数”の世界の中では生きることのできなかった人間なので、正解不正解がなくてどれも正解というのがすごい素敵なものだなって思います。これが仕事にできて本当にありがたいなって思いますね」 (取材・文・写真:志和浩司)