NYのセレブ夫婦に突然の亀裂!? 映画『ブルックリンでオペラを』レベッカ・ミラー監督インタビュー
三角関係はドラマの始まり⁉
前作、前々作と同様に、本作も三角関係の面白さが肝になってきます。微妙な夫婦の中に、異物が飛び込んできたことから騒動が起きる、という。今回もストイックなセレブ夫婦の中に飛び込んで来たのが、ガテン系女子のカトリーナです。そこから、実は今の人生に違和感を覚えていた2人が自分自身について、自分の欲望や本心、そして人生の意味について改めて向き合うことになります。 「三角関係というよりは、私は1つの物語を綴るより、複数の物語がお互いに交錯していく視点に以前から興味があるんです。途中で別の視点にシフトしていくような物語、というか。その際に重要なポイントは、ある物語から別の物語へと、いつ移っていくか。一つのキャラクターとどれくらい時間を過ごし、どこで別のキャラクターの物語を始めるか、そのタイミングが重要です。“人は他人によって形作られていく”という基本的な考えが、私の全作品で一貫しています。他人である互いの存在によって、それぞれのキャラクターが作られていくのです」 「例えばスティーブンという人物も、パトリシアといる時とカトリーナといる時とでは当然、違う側面が出てくる。私はそこに興味があるし、それを見せたいのです。だからこそ複数の(メイン)キャラクターが必要なんです。複数の要素をどんな風に掛け合わせれば最も効果的か、どういう風に解決していくけば面白くなるのかというのは少し数学的でもあって、物語開発の最も面白いところなんですよ!」
本作の大きな魅力は、メインの大人3人の物語だけでなく、子ども世代の恋愛が巻き起こす騒動がもう一つの軸になっているところです。パトリシアの息子ジュリアンと、パトリシアが雇うメイドの娘テレザが、同じ高校に通っている恋人同士です。ところが2人の関係を知ったテレザの義父が、16歳の娘と肉体関係を結んだと18歳のジュリアンを訴えると騒ぎ出し……。若い2人の恋愛模様や人生観、彼らが大人をどう見ているかなども、とても興味深かったです。 「彼ら若い2人は、大人は大人になっても人生で迷子になり得るんだ、ということに気付いています。周りの大人たちの多くが幸せではなかったり、迷子になってしまうと見て知っているだけに、テレザがジュリアンに“怖い”と言うのです。ジュリアンは、結婚のことを言っているのかと思って“僕と無理に結婚しなくてもいいよ”と言いますが、テレザは“そういう意味ではなくて、自分たちが誰であるかを忘れてしまいそうで、それが怖いんだ”と答えますよね。それに対してジュリアンが、“お互いが誰であるかを思い出させ続ければいいんだよ”と言います。ここは、まさに私が言いたいことを端的に表現したシーンなんです」 「シンプルな形の愛や、自分が誰であるか、自分は何を信じているのかなど、ごくシンプルなものが人生を重ねていくことで少しずつ失われたり、忘れられたりしていくことがある、と。もちろん誰もが成長していく中で何かを失っていくものですが、それって切ないことでもあるなと私は感じていて……。そう考えると本作は、ある種のイノセンスを改めて取り戻す、本来の自分を取り戻していく人々の物語だと言うこともできると思います。つまりこの映画の王様・女王様は、若いジュリアンとテレザなんです」