NYのセレブ夫婦に突然の亀裂!? 映画『ブルックリンでオペラを』レベッカ・ミラー監督インタビュー
「ほら、ブルックリンで暮らしているパトリシアとの生活空間は、彼女が潔癖症だからすべてが決まっていて整理整頓されているので、ちょっと厳しかったりもするんですよね。その対比としての船の中の緩さには、全てが可能な場所であるという意味もあり、それは手持ちだからこそ表現できると思いました」 「水上での撮影は、確かにとっても大変でしたよ(笑)。特にエンジンが動いてると、すごい音で何も聞こえなくなってしまうんです。だから撮る時は、一旦エンジンを切らなければならなかったので、あまり船自体を動かさずに撮影しました。それに曳船って階段をはじめほぼ金属で出来ているし、当時はコロナ禍の最中でマスク着用しながら、狭い空間での撮影がすごい大変だったけれど、そのお陰で非常にリアルな空気感を出せたとも思います。本物の曳船を使って川の上でリアルに撮影して本当に良かったです」 また船上からの眺めも美しくてロマンチックで、物語とあいまって、どこか少し未知の世界に入る怖さやワクワクも感じさせるような素敵な映像でした。 「サムがもう1つ、大きな貢献をしてくれたのが照明設計です。私のイメージを形にするため、色々な照明を設計してくれました。例えばパトリシアのバスルームでのシーンでは、非常に暴力的な照明を使っていますが、あれも彼が考えたものです。またオペラの舞台は、一応オペラ専門の照明デザイナーさんとコラボレーションしてはいますが、基本的にはサムが照明設計をしてくれています。また、例えばパトリシアの家はモノトーンの打ち出しが強く厳しい感じが伝わったと思いますが、そういう部分の色彩設計も彼の貢献によるものなんです」
運命に委ねるか、それとも運命を思い通りに変えるか
資料によると監督は、本作に“誰の人生でも運命は思い通りに変えられる”というメッセージを込めたとおっしゃっています。その言葉にはとても勇気づけられますが、私自身は本作を観たとき、“人生は思いもしない運命に翻弄されるもの。だから運命に逆らわず流されちゃえ。つまり、躊躇せずに飛び込め”的なことを感じたんです。それって監督のメッセージと真逆のようでもあり、同じことなのかな、と感じたりもしたのですが……。 「確かにその2つって、本作の核心を突くことですよね。そしてその2つは、同時に共存できる考え方だと思います。本作が1つ伝えているのは、人生において迷子になったっていいんだよ、ということです。特に今の世界、何もかもが計算・計画されていて、すべてが「こうやろう」とか「こうすべきだ」「こうあるべきだ」と決められているように感じることがあります。例えばスマホを片手に生きている私たちは、偶然の出会いも少なくなっていますよね? もちろん恋愛だけでなく、キャリアにおいてもそう。みんな自分の道を決めてから歩んでいる人が多いように感じるんです。そういうものから自分を解き放って、起きることは起きてしまうんだ、という気持ちになってみたら、また違うんじゃないかとも感じています。だからその通り、私たちは私たちの人生で起きたことに身を任せるのもアリなんじゃないか、と私も思っています」 さてさて、恵まれたセレブな生活にどこか疑問を抱き、精神科医という仕事に対しても、スティーブンという夫との関係についても、どこか違和感を覚えはじめたパトリシアの選択はーー。そして情熱的なカトリーナと関係を持つことによってインスピレーションが湧き上がったスティーブンは、それを作品に仕上げられるのでしょうか。また妻パトリシアとの関係を、カトリーナとの関係をどうするのでしょうか。 一方、罪に問われることを避けるため、16歳と18歳で結婚することを許された州に逃避行しようとするジュリアン&テレザという若いカップルと、超保守的なテレザの義父との闘いの行方は――。 スティーブンが生み出す現代オペラの舞台を物語に絡めながら、ミラー監督が「この映画全体が、ある意味オペラのような構成になっています」とおっしゃるように、ラストシーン(パトリシアの姿に思わず吹き出してしまいましたが(笑)……)の後、思わず「ブラボー!!」と立ち上がって拍手喝采したくなってしまうかもしれません。 個人的には、カトリーナの可愛さがツボでした。“自分は恋愛依存症”でストーカーして訴えられたことがある。でも病気なんだと素直に告白しつつ、スティーブンに速攻で恋してしまうカトリーナが妙に可愛らしくて、ニヤニヤしてしまいました。ストーカーは行き過ぎだし罪だけれど、こんな素直に恐れずに誰かを「好き~!!」と突っ走れるって、スゴイなぁ、と。その姿に、なんだか少し勇気をもらえるというか、羨望さえ覚えてしまいます。是非、迷える大人たちの恋と人生の選択に、一緒に笑ってドキドキして大いに盛り上がってください。 さらに何と主題歌は、ブルース・スプリングスティーンの書き下ろし曲! 彼に監督が「オリジナル曲を書いてもらうのが夢だ」と伝えたところ、映画を観て気に入った彼が3日で主題歌「Addicted to Romance」を書き上げてくれたというから、驚くしかありません!!