考察『光る君へ』46話 矢を放つ勇猛な隆家(竜星涼)に、あの時の若造の面影はない。まひろ(吉高由里子)「刀伊の入寇」に遭遇、歴史の過渡期を目撃!
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語』の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。 最終回まであと2話! 46話「刀伊の入寇」、まひろ(吉高由里子)は、旅先の太宰府で、政治家として成長を遂げた隆家(竜星涼)と再会、そして、周明(松下洸平)、乙丸(矢部太郎)とともに、大きな事件に巻き込まれます。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載48回(特別編2回を含む)です。
笑顔で語る隆家
藤式部としての人生に区切りをつけて、都から旅立ったまひろ(吉高由里子)が大宰府で再会したのは周明(松下洸平)だった。再会してすぐに周明は、かつて脅迫したことを詫び、まひろはそれを許し……成熟した大人同士が20年前の国際ロマンス詐欺未遂事件に決着をつけたのだった。ふたりの後ろで(えっ? 姫様のお命を奪おうとしただと?)という顔をしている乙丸(矢部太郎)に、当時のことを詳しく説明してあげたい。まひろは問われても「色々あったのよ」で済ませそうな気がするし。 あれから周明は故郷の対馬に帰ったが知っている者はもう誰もおらず、大宰府で通訳兼医者として働き始めたという。宋から来た、目を治す名医に師事しているとのこと……これは言うまでもなく、目に傷を負った隆家(竜星涼)に実資(秋山竜次)が薦めた医者のことだ。 おたがいのこれまでと近況を話すうちに、 まひろ「亡き夫が働いていた大宰府を見てみたいと思ったの」 周明「夫を持ったのか」 偲んで旅をしたいと思える。まひろがそんな夫と結ばれたことを、屈託ない笑顔で喜ぶ周明。嫉妬、あるいはその他の複雑な感情などみじんも感じさせない。短い台詞と表情で、これまでまひろの幸せを願って生きてきたことを想像させる、松下洸平が演じる元カレパワーよ……。周明は元カレとはならなかったけど。 周明に案内された大宰府政庁で、まひろは、平為賢(神尾佑)に従いこちらに来ていた双寿丸(伊藤健太郎)とも再会する。賢子(南沙良)のことを聞いて、 「宮仕えを始めたのか! 大人になったのだな」 と双寿丸。ああ、彼にとって賢子は本当に妹みたいなもので、女性ではなかったのだな……別れ際の「妹のようなお前」は振るために用意した言葉ではなく、本当にそう思っていたのか。 大宰権帥として赴任した隆家が登場。目はすっかり治ったらしい。髭を生やして貫禄が出ている。まひろが名乗ると、太閤・道長(柄本佑)から丁重にもてなし、旅の安全をはかるようにという命令が届いているとのこと……。 隆家「俺たちを追いやった『源氏の物語』を書いた女房をもてなせとは酷なお達しだ」 その表情と声からは本気の怨嗟は感じられない。当時としてはまだ珍しい飲み物であった茶でまひろをもてなし、都の内裏での政争をくだらぬことだと振り返る。もともと、父・道隆(井浦新)が権勢を振るっていた頃も、中関白家が凋落し伊周(三浦翔平)が道長を呪っていた時期も、彼は都の貴族社会に馴染んでいたようには見えなかった。 隆家「ここには仲間がおる。平為賢は武者だが、信じるに足る仲間だ」 為賢「隆家はこの地の力ある者からの賄賂もお受け取りにならず……」 隆家「富なぞいらぬ! 仲間がいれば」 道隆の死後、内裏で孤立した中関白家を振り返れば、この言葉に重みが増す。 周明と同じく、彼もまたこの大宰府に居場所を見つけたのだ。 宴会で大蔵種材(おおくらのたねき/朝倉伸二)、藤原助高(松田健二)、藤原友近(出合正幸)と為賢らが歌い踊る。医師・恵清(王偉)がなんの唄だ? と周明に問うているのは、日本書紀に記される、推古帝に蘇我馬子が捧げた歌だ。 「やすみしし我が大君のかくります天の八十蔭出で立たす御空を見れば萬代に……」 (私の大切な大君がお住まいである立派な御殿。見上げて万代も千代もかしこみ、お仕えいたしましょう) この歌に応えて帝はこう続ける。 「真蘇我よ蘇我の子らは馬ならば日向の駒 太刀ならば呉の真刀……」 (蘇我の一族の者たちは馬に例えれば日向の名馬、太刀に例えれば呉の名刀である) と、臣下の頼もしさを讃えるのである。大宰府にいる皆が隆家を慕って、忠誠を誓う歌を歌い舞う。隆家と彼の周りの人々の間に生まれ育った絆が伝わる場面だった。 そしてまひろに、この旅にはなにかわけがあるのだろうと言いつつも深くは尋ねず、いつまでもここにいればよいと笑顔で語る隆家に、生きる上で多くの傷を負ってきた人間の器量を感じるのである。これは男たちがついてくるはずだ……と。 なにかわけがあるのだと察したのは周明も同じだった。まひろが隆家から、「道長が出家した、体調もよくないらしい」と聞いて表情が変わったことを見逃さなかったのだ。彼は話しながら、まひろの抱える物思いを少しずつ解きほぐそうとする。 まひろと周明を照らす同じ月を、都の道長も見上げていた。 倫子(黒木華)「出家を強くお止めいたしましたけど、今のご様子を拝見すると、これでよかったと思います」 道長「心配をかけたな」 静かに首を振る倫子……。その表情は、これでよかったと自分に言い聞かせているようにも、こうなってしまってはどうにもならないのだからと諦めたようにも受け取れる。
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