新NISAに続き、iDeCoもブームに?岸田前首相らの提言で拠出枠の拡大目指すも若者やシニアは要注意
■ iDeCoを新NISAと並ぶ「個人の資産形成の柱」に こうした提言を受け、iDeCoの管轄官庁である厚生労働省では、11月8日に開催された社会保障審議会企業年金・個人年金部会で加入可能年齢や限度額引き上げに向けた議論が行われた。拠出限度額については「物価や賃金が上昇しており引き上げるべき」といった賛成意見が相次ぎ、詳細は与党の税制調査会の議論に委ねる形となった。 月額10万円という拠出限度額は、新しい少額投資非課税制度(NISA)のつみたて投資枠の限度額(年間120万円)と同じだ。金融庁が所管する新NISAの成功を目の当たりにした政府や厚労省にすれば、iDeCoを新NISAと並ぶ「個人の資産形成の柱」に育てたいところだろう。 iDeCoで各自が“自分年金”を殖やせるようになれば、将来の公的年金の給付水準低下への備えにもなる。ちなみに、2024年に実施された公的年金制度の財政検証(5年に1度行われる公的年金制度の財政状況のチェック)によれば、過去30年間の経済動向を参照した標準的な経済成長を想定した場合、2057年の公的年金の給付水準は現在より2割ほど減る見通しとなっている。 この大幅拡充が実現すれば、新NISAブームに続く新iDeCoブームが到来するかもしれない。 新NISAでは限度額いっぱいの毎月10万円を積み立てる“全力投球派”が少なくないと聞くが、iDeCoの限度額が10万円になったからと言って毎月新NISAに10万円、iDeCoにも10万円を拠出すると、投資額は倍近くになる。可能な人は限られるだろう。 多くの人は必然的に、新NISAか新iDeCoか、はたまた両方に振り分けて拠出していくかという選択を迫られることになりそうだ。 では振り分けを考える際、どのような点に注意すればいいだろうか。
■ 拠出時・運用時・受け取り時のそれぞれで税制優遇 まず、両制度に共通する「税額の軽減」という観点ではiDeCoに軍配が上がる。 新NISAでは、最大1800万円の元本に対する売却益や分配金、配当への課税をゼロにすることができる。 これに対し、iDeCoは運用時のみならず、拠出時は全額が所得控除の対象となる。受け取り時も控除が受けられるなど3つの段階での税制優遇があり、トータルでの税額の軽減効果が大きくなる。 とりわけ毎年の所得税や住民税の圧縮につながる拠出時の所得控除は侮れない。この先、拠出限度額が大きく引き上げられるとなればなおさらだ(住宅ローン控除など既に大きな控除を受けている人は、その分、節税効果が限定されてしまうが)。 ただし、人によってはiDeCoを優先しない方がいいケースもある。 金融税制に詳しいベテランのファイナンシャルプランナー(FP)は、「iDeCoの特性上、若い世代にはあまり利用を勧められない」と指摘する。 公的年金の補完制度であるiDeCoは、原則として60歳まで引き出せない設計になっている。仮にこの先、結婚、マイホームの購入、あるいは起業、海外留学、FIRE(経済的な自立と早期の退職)などでライフスタイルが変化し、急にまとまった資金が入り用になったとしても、iDeCoで拠出したお金には手が付けられない。 つまり、「ライフプランがフィックスされない若年層では、iDeCoの節税メリットよりも“流動性の低さ”というデメリットの方が大きくなってしまう可能性が高い」わけだ。 今回のiDeCo改革では、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となったことを受け、加入可能年齢の70歳未満への引き上げも検討されている。 ちなみに、現行の加入可能年齢は自営業者や専業主婦(夫)が60歳未満、会社員や公務員、国民年金の任意加入被保険者(60歳到達時点で国民年金の加入期間が40年未満の人が60歳以降も年金制度に加入して保険料を払い、将来の年金額を増やせる制度)が65歳未満となっている。