中国の根強い「反日感情」裏にある“国民のリアル”。現地の学校教育に触れて感じた様々なこと
それでも、筆者は中国人からリアルに敵意を向けられたことはほとんどない。むしろ2010年代後半の訪日旅行大ブーム以降は、プロパガンダに影響されず、自身の経験を基に日本を語る中国人が増えていると感じることが多い。 昨年、四川省の奥地でタクシーに乗ったとき、運転手が「5年前に日本に旅行して富士山を見た」というので、こんな地域に住むタクシー運転手も日本に遊びに行く時代になったのか、と感慨深かった。チベットに隣接するそのエリアは、日本に行くにも飛行機で6時間ほどかかり、東南アジアの方が圧倒的に近いからだ。
日本人学校の児童が襲撃される事件が相次ぎ、中国に関わる日本人は普段可視化されない猛烈な敵意・悪意を認識し、衝撃を受けている。筆者もその1人だ。SNSの反日・嫌日投稿が事件の引き金になったとの説もささやかれている。 日本での生活が長いある中国人女性は、「SNSに反日投稿をする人の相当数は、注目を集めるためにやっているのでは」と語る。 この女性は2010年代前半から後半にかけて、中国メディアの日本語版の運営に従事していた。当初は中国の国営メディアと配信契約を結び、政治経済記事を翻訳して公開していたが、ヤフーニュースなどのプラットフォームに記事を配信するようになると、「中国の民度ヤバい」といった中国人や共産党を嘲笑・否定する記事のアクセスが伸びることに気づき、「嫌中」「反中」コンテンツの量産に傾斜していった。
それだけでは収まらず「嫌韓」「反韓」にも手を伸ばし、配信した記事がヤフーニュースのコメントやSNSで荒れるほど、トラフィックが流入し、多くの広告収入を得ることができた。 ■対立を煽ることがメディアの利益に 女性は「対立を煽ることが運営するメディアの利益になった。SNSで反日コンテンツを発信する人の多くは承認欲求を満たしたり、ストレスを発散したり、何らかの利益を得たいと考えているのではないか」と推測し、こう付け加えた。
「発信するほうは政治的意図なくやっているけど、そういう発信に影響されて日本への敵意を強める人はいるだろうね。私たちは嫌中、嫌韓コンテンツをたくさん配信してSNSのフォロワーも獲得したが、ある時プラットフォーマーに『有害な影響を与える恐れがある』と配信契約を切られ、メディアとして立ち行かなくなった。社長も私も今は別の仕事をしている」
浦上 早苗 :経済ジャーナリスト