葛藤を通した成長が大切、「登校を促さない」で改善しない不登校の子への対処 スクールカウンセラー「社会を意識した対応を」
「思いどおりにならない」ことが苦しい子どもへの対応
──「現実」をきちんと伝えていくという関わりは、いつ頃からやっておくべきですか? だいたいイヤイヤ期になると、子どもはやや万能的な有力感をもって外界と関わろうとします。この時点から、少しずつ「他人(親)は、すべてを思いどおりにはしてくれない――けど支えてくれている」「自分は万能ではない――そんな自分でも大切にされる」という体験が積めるよう、大人は現実を変えずに子どもを支えるという関わりにシフトしていくものです。 ですが、最近は「現実のほうを変える」というアプローチをしている親御さんが増えています。この「子どもの快不快に応じて外界を変える」という対応を続けていると、小学校という枠組みのある場所に入ろうとしたときに「思いどおりにならない」という不満・不快を感じやすくなってしまいます。 ──「思いどおりにならない」という思いが不適応を招いている事例に対しては、具体的にどんなことから始めればいいのでしょうか? 先ほどの「子どもや大人、みんなの事情を考慮した枠組み」に協力するという視点が、ここでも大切になってきます。子ども中心の家族ではなく、家族を成り立たせるためにみんなが協力し合うというイメージです。 例えば、外食に行くときに、いつも子どもが行きたいお店に行っていたのを、親御さんが行きたいお店にも行くようにするんです。子どもは不満を示すかもしれませんが「家族なんだから、お互いの行きたいところに行き合うようにしよう」と伝え、「思いどおりにならない」という小さな経験を積んでいくことが大切なわけです。もちろん、協力に感謝することは忘れてはいけません。 また、「子どもや大人、みんなの事情を考慮した枠組み」では、○時に寝たいから、ゲームは△時までに終えよう、ということも出てくるはずです。もちろん、子どもはそこで不満を示すかもしれませんが、そこでのすったもんだを繰り返しながら、子どもが「自分以外の枠組みで生きる」ことを経験していくわけです。 当たり前のことですが、子どもに「ゲームは△時まで」と伝えているのに、親御さんがスマホゲームをその時間を超えてやっているのはいただけません。子どもに「家族の枠組みで生活する」ことへの協力を求めるのであれば、親御さんにもその枠組みに「協力する姿勢」が求められます。これが「親の背中を見て育つ」ということです。 このように「自分以外の枠組みで生活する」ということ、そこで生じる不満を親子の関係性の中で収めていくことを通して、子どもたちは「自分以外の枠組み」に入っていくことがしやすくなっていきます。 これができると、学校という枠組みに入ることへの抵抗感も薄くなるので、「思いどおりにならないから行かない」という形での不適応は減ることが多いです。 もちろん、内心として「自分の思いどおりにしたい」というマインドがすぐに変化するわけではないので、その後も子どもの成熟を促すような関わりを維持していくことは欠かせません。 ──学校や教員はどのような対応をするといいのでしょうか。 「現実」の経験が薄い子どもの場合、自分の現実に出合ったときに混乱することがあります。自分が間違えてしまった現実を受け入れられず、泣いたり不機嫌になる子どもが増えています。 そういうときに「間違えることはよいこと」「あなたの苦手なところを見せてもらえるのは、とてもうれしい」などのように、間違えることや失敗することの大切さを繰り返し伝えてもらえるとよいでしょう。また、先生が自分の失敗談を伝えることで、子どもたちが失敗を認め、失敗を話しやすい関係が生じやすくなります。是非、武勇伝ではなく失敗談を子どもたちに伝えてもらえると幸いです。 また、どんな子どもであっても、ちゃんと「自分はクラスの一員だ」と実感できるような関わりをしてもらえればと思います。どうしても手のかかる子どもに目が行きがちですが、大人しく授業を受けている子どもに「あなたがそうやって授業を受けてくれていることで、先生はとても助かっている」「クラスが成り立つのに、あなたの存在はとても大切だ」といった声かけが大切です(もちろん、手のかかる子どもにも)。 当然ですが、学校に来られていない子どもであっても、クラスの一員として教師が見なしているということが伝わる努力をしていくことが求められますね。 (文:吉田渓、注記のない写真:MAPS / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部