葛藤を通した成長が大切、「登校を促さない」で改善しない不登校の子への対処 スクールカウンセラー「社会を意識した対応を」
子どもの葛藤や揺らぎを大人が支えることが大切
──学校に「行かない」「いや行くべきだ」という葛藤が生じるケースは登校できなくても予後がよいということだと思いますが、再登校を目標にしないと将来的に社会参加が難しくなると思われるのは具体的にどのようなケースですか? さまざまなパターンがありうるので、具体的な例を挙げながら話していきましょう。中学生の不登校気味の生徒が「体育に出たくない」と言っているとしましょう。親も教員も「それで学校に来れるなら」と体育に出ないことを了承しますね。ですが、この生徒が高校に進学すると、今の「体育に出ない」というスタンスを変えていかないと留年になってしまいます。 先ほどの「脱錯覚」でも触れたように、昔に比べて、現代の子どもたちは「耳が痛い現実」に直面することが少なくなっています。もちろん、現実を前にして傷ついたとしても、それを大切な誰かに支えられていくことで、子どもたちは成長する力があります。ですが、そういった機会が少ないまま成長し、急に「耳が痛い現実」に直面すると、そこから離れようとしてしまうのは無理もありません。 上記の事例の場合、そういった「耳が痛い現実」を伝えずに高校に進学することは、生徒からすると「寝耳に水」という感じでしょう。実際に、「中学校ではそれでも進級できたけど、高校では留年になることは知ってる?」と伝えると、「そんなことが自分に起きるんですか?」と驚いて、その場でスマホを取り出して調べるというケースもありました。 大切なのは、子どもに訪れるであろう「現実」を伝達し、そこで生じる揺れを支えていくことです。中学校で「高校で体育に出ないのは留年のリスクがある」と伝えることで、子どもはいろいろなことを考えるはずです。自分の「体育に出ない」というスタンスを変えることもあれば、自分のスタンスのままで進級できそうな高校を選び直すこともありうるでしょう。 このさなかに生じる心理的な揺れを支え、子どもたちが自分の現実を生きていけるようにすることが、われわれ大人の役割だと思います。大切なのは、子どもに現実を伝えないようにして「無風地帯」をつくるのではなく、現実を前にした葛藤や揺らぎがきちんと支えてもらえるという「安全地帯」をつくることなんです。 ただ、昔に比べて、子どもたちに「現実」を伝えづらくなりました。例えば、学力以上の学校への進学を希望しているお子さんがいても、教員が「点数が足りていない現実」を伝えることで、「先生がダメだと言ったから希望する学校に行けなかった」と他責的になったり、ショックを受けている子どもを前にした親が「もっと配慮してくれ」と言ってくるという事例もあります。 そうなると「学校が現実を伝える」ということがしづらくなるわけです。通信制などの選択肢が増えたことは基本的によいことですが、子どもが「今のスタンスを変えなくても通える」ということにもなりやすいので、どうしても「現実に直面して、悩みながら成長する」という機会は少なくなってしまいます。この辺は難しいところです。 ──「現実」を伝えたほうがよい事例とそうでない事例は、どう見極めればよいのでしょうか? これは親御さんや教員だけではなく、カウンセラーのような専門家が入り、きちんとプロとしての見立てを行って見極めていくことだと思います。子どもに「現実を伝え、支えていく」ことが必要な場合は、親御さんがこの方針に共感できるかは大切なことです。年齢にもよりますが、子どもを支える役割を担うのは親御さんになることが多いので、協力関係の中で方針も共有して同意を得ていくことがマナーですね。