「ゴルフ界を飛び越えた大会」。パリ五輪、男子ゴルフを現地解説した佐藤信人プロが大会を振り返る
松山英樹が、日本男子ゴルフ史上初の銅メダル獲得という快挙を成し遂げて幕を下ろしたパリ五輪「男子個人ストロークプレー」。現地で解説をつとめた佐藤信人プロに大会を振り返ってもらった。 最終日パーオン率100%を記録した松山英樹のアイアン正面連続写真(撮影/Blue Sky Photos)
松山英樹の“リベンジ”は4年後のロスオリンピックへ
パリ五輪、4日間のゴルフ競技の解説を終えました。その興奮のまま、感じたことをお話ししたいと思います。 まず感じたのはオリンピックのゴルフ競技は、「ゴルフ界を飛び越えた大会」だということです。ゴルフは8年前のリオ五輪で112年ぶりに復活しました。このときは「ゴルフはオリンピックには向かない」との否定的な意見も聞かれました。しかし、東京五輪、今回と3大会とも解説をさせてもらったボクは、大会ごとに上がる“熱量”を感じました。それは普段のゴルフのトーナメントでは味わえない、またメジャーとは違った“熱量”です。 火曜日の練習ラウンドでコースに入ったときには観客もいませんから、正直、それほどゴルフが盛んではないフランスで、どれだけ観客が入るのか不安でした。ところが蓋を開けてみると、初日、国旗や選手の名前を書いたボードを持ったギャラリーが続々と入ってきます。おそらく国旗を振られ、名前を連呼されての熱い応援を体験したプロゴルファーにはそうはいないはずです。 その“熱量”は、地元・フランスのビクトル・ペレスのゾーンに入ったかのような追い上げ、最終日のバック9に入ってからのマキロイの5連続バーディ、やはり最終日最終ホールでパーディパットを外した時の松山(英樹)くんの悔しがり方、さらに加えれば、けして褒められる行為ではありませんが、2日目、スコッティ・シェフラーがボールを池に投げ込むといった悔しがり方……などに現れた気がします。 オリンピックに出場する選手の、国を背負って戦うという“選ばれし者”の誇りや責任が感じられました。他の競技の選手との交流がまた、そうした思いを強くもしたのでしょう。ボクは試合中、50km離れたIBC(国際放送センター)というところにいました。フィールドにはいませんでしたが、日本選手がメダルを取ったりするとセンター内も大変な盛り上がりになります。選手や観客と同じ場所にはいませんでしたが、中継スタッフみんなで盛り上がれたのは幸せです。 さて、試合について振り返ってみます。まずはマスターズを含む今季6勝のシェフラーが世界ランク1位の貫禄を見せて金メダル。銀メダルにはトミー・フリートウッド、そして松山(英樹)くんが銅メダルを獲得しました。 最終日は世界ランク2位で今年、全米プロ、全英オープンのメジャー2勝のザンダー・シャウフェレ、23年のマスターズ覇者のジョン・ラームが14アンダーで首位に立ち、1打差でフリートウッドが追います。この最終日最終組の3人なかで崩れる選手がいるとしたら、いまだPGAツアーで勝利のないフリートウッドだと多くのファンが思ったはずです。ところが特にバック9で、信じられないほどスコアを落としていったのがシャウフェレとラームでした。そして4打差でスタートしたシェフラーの逆転金メダルとなりました。 会場のル・ゴルフナショナルは10月のDPワールドツアー、フレンチオープンの会場でもありますが、過去の大会のデータを見ても逆転優勝の多いコースです。昨年は久常涼選手が4打差を、一昨年はイタリアのグイド・ミリオッツィが5打差をひっくり返しました。 その理由としては、(グリーンの)ポアナ芝が後半になるにつれ悪さをするという場面はほとんど見受けられなかったので、やはりハザードである池や、深いラフの存在のような気がします。もちろん池やラフは全選手に対して同じなのですが、守りに入った選手にはより厳しい風景に見えるのでしょう。 ここは1番ホールからいきなり池の恐怖にさらされるコースで、池がフェアウェイやグリーンからすごく近いのが特徴。池を嫌って反対側に逃げると深いラフやバンカーが待ち受けているといった感じで、逃げ場所がないコースです。ところが恐れずに攻めると、それなりの報酬があるのです。 3日目にニコライ・ホイガードが、最終日にシェフラーがコースレコードの62をマーク、初日の松山くん、最終日のペレスの63などのビッグスコアとなって現れてもいます。一方で守りに入ったラームやシャウフェレの信じられないような崩れ方……。難易度では17番がランク2、18番がランク1という上がり2ホールの難しさは、守りのゴルフに誘導されるシチュエーションでもあるのです。 そんななかで松山くんの銅メダルにスポットを当てると、最終日は最後まで攻めの姿勢を崩さなかったように思います。その精度の高いショット力で、1回もグリーンを外すことがありませんでした。特に後半、ピリピリした場面でも表情を変えない強いメンタルは、完全に強い松山くんが戻ってきた感じでした。 ちなみに松山くんのプレーぶりは、PGAツアーの9勝目を挙げた今年2月のザ・ジェネシス招待、最終日を62のコースレコードで回り、6打差を大逆転したあの試合を思い出しました。東京で7人のプレーオフの末に銅メダルを逃し、今回は銅メダルこそ獲得しましたが「一番いい色のメダル」への想いは、松山くんのなかで一層強くなったはずです。 優勝したザ・ジェネシス招待のリビエラCCは4年後のロス五輪の会場。気の早い話ですが、4年後がさらに楽しみになりました。選手たちも皆、さまざまな思いを抱きながら、それぞれの“ツアー”という舞台に戻っていくのだと思います。 === 金メダリストのスコッティ・シェフラー、銀メダリストのトミー・フリートウッドの人となりがわかり記事は「関連記事」からご覧いただけます。
週刊GDツアー担当