著名トランスジェンダー舞踏家の公演、中国各地で中止相次ぐ 弾圧強化恐れる声も
香港(CNN) 中国のトランスジェンダー舞踊家として長年活躍してきたジン・シン(金星)さん(57)の舞踊団公演が、何の説明もないまま突然中止される事態が中国全土で相次いでいる。 【画像】パリ公演の準備をするジン・シン(金星)さん 中国ではトランスジェンダーが社会的偏見や制度的差別にさらされることが多く、仕事を探したり、ただ街を歩いたりするだけでも白い目で見られることがある。 そうした中でもジンさんは何十年ものキャリアを築き上げてきた。公演のチケットは売り切れ、テレビのトーク番組の司会を務め、SNS微博(ウェイボー)のフォロワー数は1360万。中国共産党の公認も取り付けていた。 中国国営メディアはジンさんを「中国現代舞踊の10大レジェンド」の一人と位置づけ、輝かしい実績を何度も紹介している。 トランスジェンダーの人たちにとっては、中国がいつかジンさんと同じように自分たちも受け入れてくれる進歩的な国になるかもしれないと希望を持たせる存在だった。 しかし、中国政府は性的少数者(LGBTQ+)の弾圧など、欧米の価値観の影響下にあるとみなした事象に対する統制を強めている。 昨年末、広州市は、書類の不備を理由にジンさんの舞踊団の公演を中止させた。続いて中国国内各地で相次ぎジンさんの公演が何の説明もなく中止になった。 アジアのトランスジェンダー事情に詳しいオーストラリア・カーティン大学のサム・ウィンター准教授によると、ジンさんが当局に公認されていたのは、ジンさんの長年の実績が当局にとっても無視しがたく、中国の自由化が進んでいるように見えた時代に始まったためだった。 「だが状況が変わったようだ。一層リベラルな雰囲気にシフトしたことが問題だったのかもしれない」 数年前までLGBTQ+の人たちは上海で毎年恒例のプライドパレードを開くことが許され、SNS微信(ウィーチャット)で学生が運営するグループに自分たちの日常を投稿することも可能だった。 しかし習近平(シーチンピン)国家主席の下でそうした運動に対する弾圧が強まった。 支援団体は解散を強いられ、活動家は警察の嫌がらせを受け、プライドパレードは中止に追い込まれ、同性関係を描いた映画やテレビ番組は禁止された。 ジンさんの中国政府との対立は、昨年10月に広州市文化ラジオテレビ観光局が、オペラハウスで12月に予定されていた公演を中止したことが発端だった。 国営系オンラインニュースサイトの「ペイパー」によると、ジンさんはウェイボーへの投稿で公演の中止を批判。広州市で予定していたのは中国の著名劇作家・曹禺による古典「日出」を脚色した作品で、過去4年間、中国全土で上演してきた演目だったことを明らかにした。ジンさんのこの投稿はその後削除されている。 ジンさんはさらに、中止の理由を明らかにするよう当局に求め、「公権力を乱用しないで」と訴えていた。 この投稿後、仏山市、蘇州市、さらに劇団が拠点とする上海市での公演が、何の説明もなく会場から中止を通告された。 国際放送テレビ局フランス24の取材に対してジンさんは、これまで40年間、中国での公演が認められてきたのに、こうした当局の決定には納得がいかないと語った。 ウェイボーの一部ユーザーは、ジンさんが過去の公演で「愛は愛」と描かれたレインボーフラッグを掲げたことで、一線を越えたのかもしれないと推測している。 「これは(2024年)1月のことだった。その後も全土で何の問題もなく公演を行っていた」とジンさんはフランス24に語り、「今も理由を問いかけている」と告白した。