新型コロナ変異株のインスタント・カーマ!【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■怒涛の勢いで進む論文審査、そして...... 翌日。1月17日の9時過ぎに、羽田空港から出国し、渡欧。その機内でなんと、LID誌から、投稿した論文の「リバイス(改訂)」依頼のメールが届く。投稿してからまだ24時間も経っていない。これは通常では考えられない、とんでもない早さである。慌てて機内からラボメンバーに、修正稿を作成するための準備を指示。 1月17日の現地時間15時過ぎ(日本時間18日0時過ぎ)、イギリス・ヒースロー空港に到着。ロンドン市内のホテルにチェックインし、現地の深夜(日本時間19日の朝)に、最後の修正依頼を日本のメンバーたちに送信して就寝。 1月18日の朝、ホテルをチェックアウトし、フランス・パリ行きのユーロスターに乗るためにセントパンクラス駅へ。駅構内のカフェでカフェラテを飲みながら最終稿を仕上げ、それをLID誌に再投稿した。 首尾よくひと仕事を終え、ユーロスターに乗り込み、出発を待っていると、現地時間12時過ぎ(日本時間21時過ぎ)、LID誌から「アクセプト(採択)」の連絡が届く。駅構内のカフェから投稿してから、わずか1時間後の知らせだった。 ――というわけで、「プロジェクトの立ち上げから論文の『アクセプト(採択)』まで」が最短だったG2P-Japanのプロジェクトの期間は「14日」。この通知を受けとった私の脳裏には、作詞作曲からわずか10日ほどでレコードの発売に至ったという、ジョン・レノンの「Instant Karma!」が浮かんだ。
■Instant Karma! 最後に余談だが、実はこのときの出張の目的地は、フランス・パリのパスツール研究所。40話にも書いている、2023年始めの、G2P-Japan欧州ツアー冒頭の出来事であった。 国ごとの新型コロナ対応の違いを見比べたいと思い(単純に、日程が合う羽田ーパリ直行便がなかった、ということもある)、イギリス・ロンドンから欧州入りし、ユーロスターでフランス・パリへ。そしてパスツール研究所での用務の後は、TGVとICEを乗り継いでドイツ・フランクフルトへ移動し、そこから帰国する、という旅程を組んでいた。もしかしたらこの旅程のどこかで、リバイスの対応をすることになるのかな、とは想定していたのだが、まさかまさか、パリに到着する前に完了してしまうとは......。 われわれG2P-Japanの頑張りはもちろんだが、LID誌の迅速な対応にも目を見張るばかりであった。このスピード感は、研究者の頑張りだけではどうにもならず、新型コロナという有事の問題意識を共有した「みんな」の総意が必要になる。レコードの販売だって、ミュージシャンが急いで曲を作り、それをレコーディングしたからといってリリースが早まるとはかぎらない。「Instant Karma!」だって、神がかり的な作曲とレコーディングの速さだけではなく、プロデューサーやレコード会社、営業やもろもろの影の努力があっての賜物だったはずである。 このときの「XBB.1.5スクランブル」も似たようなもので、迅速な情報発信のために尽力してくれた匿名のレビュアー(査読者)のみなさんや、LID誌のエディター(編集者)には、この場を借りて感謝したい。 文・写真/佐藤 佳