新型コロナ変異株のインスタント・カーマ!【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第74話 これまで、新型コロナウイルスに関する論文を48報発表してきたG2P-Japan。その中でも、最短最速で完遂したプロジェクトとは? 【写真】XBB.1.5の研究成果についての投稿 * * * ■G2P-Japan史上、「最速」のプロジェクトは? 筆者が主宰する研究コンソーシアムG2P-Japanは、2021年1月に発足した。このコラムを書いている2024年10月、G2P-Japan発足から46ヵ月が経とうとしている。これまでにG2P-Japanが発表した、新型コロナに関する学術論文の数は48。月報を上回るペースである。ほとんどの論文は、プロジェクト開始からだいたい数ヵ月以内に論文としてまとめてきた。今回のコラムでは、最短最速で完遂したプロジェクトについて紹介しようと思う。 ちなみに、この連載コラムの45話で紹介したことのある新型コロナ変異株「ミュー株」の研究も、「WHOの命名からわずか6日でプレプリントを公開」という切り取り方をすると、めちゃくちゃ早く論文を仕上げたように聞こえるかもしれない。しかしこの研究の場合、事前情報がすでにあって、実はひと月前からコツコツと研究を進めていた、という裏事情があった。 今回はそういう裏話を抜きに、「プロジェクトの立ち上げから論文の『アクセプト(採択)』までの期間が最短」、つまり、「実際に研究に従事した期間がガチで最速」のプロジェクトの話である。読者のみなさんは、「XX日くらい!」、という予想を立ててから読んでみると面白いかもしれない。 ■2022年末、XBB.1.5(俗称「クラーケン」)が突如出現! 2022年末。XBB.1.5という新しい新型コロナ変異株が出現し、アメリカで流行が急拡大。ツイッター(現X)でも、これにまつわるツイートが飛び交っていた。そのような状況を受け、G2P-Japanでも、2023年の年始早々、緊急プロジェクト(われわれはそれを「スクランブル」と呼んでいる)が立ち上げられることとなった。 ちなみにXBB.1.5には、「クラーケン」という俗称がついていた。XBB.1.5や当時の流行の背景については、この連載コラムの3話で詳しく解説しているので、もし興味があればそちらも参照していただきたい。 このスクランブルプロジェクトがフォーカスするのはただ1点、「XBB.1.5がほかの株を出し抜いて、一気に主流の株に躍り出ることができた特性の解明」である。