ただ歩くだけではダメ? 健康寿命を延ばす「適度な運動」を専門家が紹介
徐々に暑さも和らぎ、スポーツの秋が近づいてきました。健康な体を維持するためには、適切な運動など、日ごろの生活習慣が影響します。医学博士である飯沼一茂氏が、免疫機能を強化して体調を良好にするための方法を紹介します。 【参考グラフ】生活習慣改善プログラム ※本記事は、飯沼一茂:著『免疫アップの最強セットリスト -自分で選ぶ健康寿命の延ばし方-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。 ◇夕食から朝食までの12時間「プチ断食」 まず、実例として私の知人であるK先生がおこなった「生活習慣改善プログラム」を紹介したいと思います。 さまざまな取り組みの組み合わせですが、私が最も注目しているのは、夕食後から翌日朝食まで、約12時間という長さです。これは「プチ断食」と言ってもいいでしょう。これにより、消化によって体力を奪われることなく平均8時間という睡眠時間は、より深い休息の時間となります。体だけでなく、脳や精神のリフレッシュが実現します。 K先生は午前中に約1時間、そして、午後30分のウォーキングにより、4か月間で約6キログラムの減量に成功し、体調もすこぶる良好とのことです。その期間、これといった食事の制限はしていません。減量したい方は、大いに参考になると思います。 過体重や肥満は、体内の炎症を引き起こす可能性が高いです。これに対抗するために免疫系が常に活性化され、過度な炎症が発生しやすくなります。体重を減少させることで、炎症が軽減され、免疫系の正常な機能が回復しやすくなります。 逆に適切な体重維持は、免疫細胞の機能を向上させることがあります。過体重や肥満の場合、免疫細胞の活性や機能が低下し、感染症への抵抗力が弱まることがあります。体重を減少させることで、これらの免疫細胞の機能が改善され、感染症に対する防御力が向上します。 また、体重を減少させることにより、糖尿病・高血圧・心血管疾患などの慢性疾患のリスクが低下します。これらの疾患は免疫系に負担をかけ、免疫機能を低下させる可能性があるため、体重の減少により免疫への負担が軽減されます。 過体重や肥満は、ホルモンバランスに影響をおよぼすことがあり、免疫機能にも影響する可能性があります。体重を減少させることで、ホルモンバランスが改善され、免疫系の調節が正常に戻ります。 ただし、急激な体重減少や極端なダイエットは免疫系に負担をかける可能性があるため、健康的な方法で体重を減少させることが重要です。 運動が免疫システムに与える影響は非常に重要で、以下のようなポジティブな変化があります。 適度な運動は、免疫機能を強化することが知られています。運動により、体内の白血球数が増加し、これにより病原体に対する防御能力が向上します。 また、運動は慢性炎症の抑制に役立つことがあります。炎症が適切に制御されないと、免疫システムが過剰反応し、自己免疫疾患などの問題を引き起こす可能性があります。運動により、炎症を抑制するサイトカインが増加することがあります。 運動はストレスホルモンのレベルを低下させ、ストレスが免疫システムに与える負荷を軽減するのに役立ちます。慢性的なストレスは免疫機能を抑制する可能性があります。そして、運動により血流が増加し、免疫細胞や栄養素が体内に効率的に運ばれます。これは免疫細胞が感染症や異物に対処するのに役立ちます。 中高年者が運動トレーニングを継続しているかぎり、安静時唾液SIg A(唾液中のIg A)分泌速度の増加効果が3年以上続くことが明らかになりました。これは、口腔内免疫機能が増強した可能性を示しており、中高年者の中等度強度の運動トレーニングは、健康で長生きするための大きな方策となる可能性が示されました。 ◇1日20分以上の早歩きしてますか? 運動することにより、毛細血管の血流量が増加し、唾液などの粘液の分泌が促進されます。その結果、目・鼻・口・消化管などの上皮が非常に強力になっていきます。 ただし、後に詳述する通り、極端に強すぎる運動、過度なトレーニングは逆効果となり、免疫機能を抑制する可能性があります。健康になれるのは、あくまでも適度な運動です。 また、急激な運動をおこなう前後に適切なウォーミングアップとクールダウンをおこない、ケガを防ぐことも大切です。個人差があるため、具体的な運動プランや免疫システムへの影響は人によって異なります。 一方、過度な運動をしてしまうと、免疫機能を低下させます。激しいトレーニングを継続しているスポーツ選手は、一般の人より3倍も風邪に罹かりやすいといわれています。 過激な運動やトレーニングは、身体への負荷を増加させ、それによってストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加することがあります。過度なストレスは免疫系に対する負荷となり、一時的に免疫応答が低下する可能性があります。 また、過激な運動によって筋肉がダメージを受け、回復に時間がかかる場合、疲労が蓄積することがあります。疲労は免疫系の適切な機能を妨げる可能性があります。そして過激な運動は一時的に炎症反応を引き起こすことがあります。これは筋肉の修復や成長に関連していますが、過度な炎症が持続すると免疫系に影響を与える可能性があります。 適切な栄養摂取がおこなわれない場合、免疫細胞の適切な機能が妨げられる可能性があります。過激な運動をおこなう場合、適切な栄養補給が重要です。過度な運動は過トレーニングとして知られ、免疫系に悪影響をおよぼす可能性があります。過度の運動は体力だけでなく、免疫系にも負荷をかけるため、免疫機能の低下が起こることがあります。 従来、健康づくりにおいては、運動が効果的であることは周知の事実でしたが、「どのような運動を、どの程度おこなえばよいのか」については、あまり言及されませんでした。15年以上にわたる膨大なデータによって、これを明らかにしたのが「中之条研究」です。さらにその成果として、健康維持・増進、健康寿命の延伸に向けて、日本の医療の3分の2以上を占める11の病気・病態ごとに、それぞれの予防基準を示しました。 この研究によって、現在では、単に歩く(歩数)だけでは十分ではなく、歩く質(強度)も重要であることがわかっています。健康維持・増進、健康寿命の延伸には、1年間の1日平均歩数が8000歩以上で、そのうち、その人にとっての中強度活動(速歩きなど)時間が、20分以上含まれていることが期待されます。
飯沼 一茂