伊藤比呂美「母とは一生わかり合えないと思って生きてきた。寝たきりで認知症が進んだ母の介護で訪れた変化」
母娘の日常を綴ったエッセイもある詩人の伊藤比呂美さんと、心療内科医として家族関係に悩む人にも向き合っている海原純子さんは、それぞれ幼少期から母との距離に違和感を抱えてきたという。母を看取った、今の年齢だからこそ言えることとは(構成=山田真理 撮影=村山玄子(伊藤比呂美さん)/大河内禎(海原純子さん)) 【写真】伊藤比呂美さんが、一生わかり合えないと思っていた母親とコミュニケーションが取れたのは… * * * * * * * ◆子育てで気をつけたこと 海原 私は子どもがほしかったのですが、体質的に難しくて諦めました。伊藤さんは、娘さんがいらっしゃるのですよね。 伊藤 3人いまして、母娘のすったもんだを3回繰り返しています。でも、母のように厳しく娘たちをコントロールしようと思ったことはないし、できるとも考えていません。 もちろん、限度を超えたら「何やってんの!」と怒鳴るんだけど、そういう私を見て「家庭というところは、感情のリミッターを外して弱みを見せてもいい場所なんだ」と学んでくれたらいいな、くらいに考えていましたね。 海原 それはとてもいい感情の出し方だと思います。完全に抑えるのではなく、アサーティブ(相手を尊重しながら自分の意見や考えを適切に表現すること)な怒り方というか。 伊藤 海原さんが描いた二面ある顔の絵じゃないけど、仮面性は良くないと思ったんですよ。本当は自分がブチ切れているのに、「あなたたちのためを思って」と誤魔化すようなことはね。
海原 感情を抑え込んで封をするのは良くない。隠していても、見抜く子どもは見抜きます。 伊藤 かといって冷静すぎるのも考えもの。アメリカで3人の娘を育てていたとき、2番目の夫は英国文化で育ったので、わりと理詰めで子どもを叱るんです。それも一つの方法ですが、それだけだと子どもに逃げ場がなくてかわいそうだった。 また相手を一人の人格として尊重するアメリカ流の子育ても素晴らしいと思いつつ、親子が完璧な姿しか見せないのも息苦しいと思った。適度に「ああ、母ちゃん怒ってるなー」と感じてくれる関係がいいんじゃないかと。 海原 YOUメッセージとIメッセージの違いですね。子どもという「あなた(YOU)」を主語にすると、命令的で責める口調になる。伊藤さんの場合は「私(I)は怒っている」と自分を主語にすることで、相手が納得しやすくなり自分も冷静になれる。 伊藤 まあ、私の再婚やアメリカ生活もあって、娘たちとは相当なことがありましたが、なんとか試行錯誤してきました(笑)。正解はわからないまま、彼女たちはアメリカでそれぞれ家庭を持ち、私は熊本で勝手にやっているし。 でもこないだ、私が野犬の子どもを保健所からもらってきたら、一番上の娘が「お母さんはやっと大学の仕事が終わって、自分たちに目が向くと思ったのに」と言ってきたの(笑)。40歳近い娘がですよ。 海原 「たまにはこっちも見てよ」というメッセージ?(笑) 伊藤 そのあとしばらく毎週定期的にその娘と電話で話すことにしました。この娘、ど真ん中に来るから、対処しやすい。
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