なぜ朝倉海は衝撃のTKO勝利でRIZINバンタム級王座奪取に成功したのか?
朝倉海は、総合の試合では、あまり見られない珍しいボディブローでジワジワと扇久保を追い詰めていた。朝倉海の身長が172センチで扇久保が160センチ。ボディブローを攻略の糸口の武器として選択した理由は、この体格差である。 「リーチ差があった。僕だけが当てれて向こうが届かない距離。そこで戦うようにしていた」 兄貴と共に練ったしたたかな知略の勝利である。 ピンチらしいピンチは一度だけ。1分30秒過ぎに膝蹴りにいった左足を扇久保につかまれてテイクダウンを狙われたのだ。だが、片足になった朝倉海は、うまくロープを使い、バランスを保ち危機を回避していた。 「テイクダウンが強いのはわかっていたが、まず取られない自信はあった。そういう場面で(効果のある)パワーをつけられた。パーソナル(トレーニング)で、ウエートを増やし大晦日とは比べものにならないくらいのパワーをつけた。そこは見せられた」 扇久保は「思ったより打撃が重たかった」と、勝者を称えた。 確かに朝倉海は進化していた。しかし、何も余裕があったわけではなく、崖っぷちに追い詰められていた。 「連敗したら終わりだと思っていたので、ひと安心。最後になるのかな、それくらいの気持ちだった」 まるで憑物が落ちたかのような柔和な目になって朝倉海は心境を吐露した。 逆境を力に変えた。昨年8月に名古屋で開催された「RIZIN.18」で、RIZIN、ベラトール2団体王者の堀口に、わずか68秒でKO勝ちする大番狂わせ。堀口のリベンジ宣言を受けて立ったが、堀口が大怪我をして再戦が流れた。返上されたRIZINバンタム級のベルトをかけて大晦日にマネル・ケイプとの王座決定戦に挑んだが、2ラウンドにまさかのTKO負け。そして、堀口よりも先にまずリベンジを果たすべきケイプが、UFCに電撃移籍して対戦相手を失い、ついには、新型コロナに襲われてRIZINの大会自体が延期となった。だが、敗戦の悔しさと、この7か月の時間をプラスに転じた。 「大晦日の負けで自分の弱い部分がわかった。そこを消すために、練習場所も変え、新しくパーソナルトレーニングも始め(ウェートトレーニングの)量を増やした。兄貴と練習する時間も増やし、細かいテクニックの部分を習った」 朝倉海の強さの理由である。