なぜ2冠王者の堀口恭司が朝倉海に68秒KO負けする衝撃の“ジャイキリ”が起きたのか?
総合格闘技の「RIZIN.18」が18日、名古屋のドルフィンズアリーナで行われ、RIZINとベラトールの2冠王、堀口恭司(28、ATT)がRIZIN4連勝中だった朝倉海(25、トライフォース赤坂)に68秒でKO負けを喫するRIZIN史上最大のジャイアントキリングが起きた。兄の朝倉未来(27)が作った戦略通りに、右のクロスカウンターでダメージを与えると、一気にラッシュをかけて、最後は右のフックでとどめを刺した。試合後、堀口がベルトを賭けてのダイレクトリマッチを要求すると、朝倉も「もう一回戦うのが筋」と明言。榊原信行実行委員長も堀口の回復を条件に年内に再戦を実現することを約束した。
作戦通りの右のカウンター
6281人で埋まった真夏の名古屋のドルフィンズアリーナが揺れた。体を沈めた堀口が下から右のストレートを打ちにいった刹那。 「作戦通り。クロスカウンターを一番狙っていた」という朝倉が身長差が7センチある上から右のカウンターを打ち下ろした。 パンチは伸び切っていないところが一番効く。いわゆる急所にヒットしたわけではなかったが、「一瞬の隙を突かれちゃって」、顔面に一撃を受けた堀口は、よろけて右手を着いた。 「打つとき必ず(首が)左に倒れるので、こっちから見て右側へ打ち込む作戦でした」 堀口は、右を放つ際、カウンターを防ぐために頭の位置を左にずらして打つ癖がある。朝倉は、兄の未来の分析によって、その癖を知っていたのである。しかも、その一撃で勝負が決まらないことまで想定していたというから恐ろしい。 「当たっても一発で倒れないことはわかっていた。組みつかれることも想定していた。当たった後にいかに焦らずに冷静にいくか。膝をぶちこんだり」 朝倉は猛ラッシュを仕掛けたが、最初の一撃で記憶の飛んだ堀口は本能のまま組み付き、左右のフックを振り回しながら対抗した。 それでも飛び膝蹴りを一発ヒットさせ、動きを止めた朝倉は、最後に右フックでとどめを刺した。堀口が腰から砕け落ちて、目の焦点が定まらないまま戦意を喪失するとレフェリーが間に入って朝倉のKO勝利を宣言した。 わずか68秒。パンフレットの真ん中にデカデカと堀口の写真が掲載されていた“日米2冠王”の凱旋試合に衝撃の大番狂わせが起こることを誰が予想できただろうか。 「勝てないって言った人が多かったけど、そんなことはなかったでしょう」 右手を突き出しながらリングを回った朝倉は、“参謀”の兄、未来と抱き合った。 「冷静に戦えば勝てるからと言われていた。(兄とは)一緒に戦っている気持ちだった。分析に時間を費やしてくれた。“よかったね”と安心してくれた」 分析、戦略に定評のある兄の未来は、堀口と雑誌の企画でマススパーを行った経験があり、その実体験を生かした“勝利方程式”を弟に授けていた。 「次またやる可能性があるのであまり多くを語りたくないが、(堀口は)左のフックが上手いので、左から入らず右を合わせる作戦でした」 兄と共にボクシングの元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者、内山高志氏の四谷にあるジムへ通い、その必殺の右のカウンターを磨くため、ボクシングの技術を学んだ。 「力の伝え方を習ってパンチ力が上がった。当たれば効かせられるパンチを持っていた。顎に当たらなくても効くと思っていた」 現役時代、ノックアウトダイナマイトと呼ばれた内山氏から体重の乗せ方、タイミングを学び、そのパンチが堀口の意識を断ち切ったわけだが、カウンターを打つには、技術だけではなく、勇気という名の強靭なメンタルが必要になってくる。 「自分に自信を持って戦えたことが今回の勝因。僕は覚悟を決めてリングに上がっているので相手への恐怖心はまったくなくて、パンチもスレスレで外して怖がらずに戦うことができている」 開始直後、堀口の右のフックが鼻の根元を掠っただけでカットして流血した。 「パンチはあるなと思った。でも想定内だった」 それでも恐怖感が湧くことはなかったという。 腕自慢の元不良や地下格闘技の荒くれが集まる「アウトサイダー」のチャンピオン。“格闘王”前田日明氏が主宰している格闘イベントだ。朝倉には札付きのワルだった兄と路上ファイトを繰り返してきた度胸がある。そのハートに技術と兄が分析する戦術、戦略が加わった。偶然ではない。根拠のある“ジャイキリ”だった。 「理想の勝ち方ができたんで素直に嬉しい。無理だから挑戦するな、じゃなく、挑戦する大切さをたくさんの人に伝えたかった。自信になりましたね」 静かに語る朝倉の姿が印象的だった。