RIZINの那須川vs堀口戦はなぜ格闘史に残る名勝負になったのか
「RIZIN.13」が30日、さいたまスーパーアリーナで行われ、キック界の“神童”那須川天心(20、TARGET/Cygames)と、元UFCトップファイターの堀口恭司(27、アメリカントップチーム)が3分3ラウンド(1ラウンド延長)のキックボクシングルールで対戦。格闘技界の歴史を塗り替えるようなスピーディーでスリリングな試合となり最終ラウンドに追いつめた天心が3―0の判定勝利で辛勝した。 勝者の那須川天心が泣きじゃくり敗者の堀口恭司は笑っていた。 20歳と27歳。キックの看板を背負ってキックルールで戦い、勝利を宿命づけられていた“神童”と、UFCという世界最高峰の舞台で戦ってきた総合格闘家の余裕と挑戦心。そして何より、ノーサイドの抱擁に互いに抱いていたリスペクトの封印が解かれた。 「プレッシャーというか緊張感からの解放感。それに試合が終わって、あんなにニコニコして、堂々としている人いないじゃないですか。本当に強い人なんだなと。感動して。本当にすごい人で戦うのは嫌だった。最後の最後まで敵として見れなかった」 試合前の激しい舌戦も本心とは裏腹だった。 堀口もリング上で「那須川君、いろいろでかいこと言ってごめんね。強かったよ」と声をかけて、試合前の発言を謝罪した。名勝負にふさわしいエンディングだった。 台風24号の影響で、電車が止まる前に家路に急ぎたかったはずの観衆の誰一人としてそこを動かない。全盛期を彷彿させる格闘技の熱がそこにあった。
何かが起きる予感があった。 大型の台風24号の直撃が予想されたため試合開始時間が変更された。最寄りの「さいたま新都心駅」からのJR在来線は、午後8時以降の運行を終日見合わせることが昼過ぎには発表されていた。当初、このメインカードは、午後9時を過ぎて行われる予定が組まれていたが、そうなると2万人を越える来場者の帰宅の足がなくなる。大会本部は、生放送を予定していたフジテレビと協議し3試合を入れ替える英断を下した。 ただ大砂嵐対ボブ・サップの“”茶番”を含め主催者の希望を裏切る判定決着が多く“世紀の一戦”のゴングは6時55分頃になった。 堀口が伝統派空手の構えからジリジリとプレッシャーをかける。どちらかといえば那須川が受けた。 「一瞬で決めるというオーラがあった」(那須川) 「思っていたよりは相手も警戒していて攻めづらかった」(堀口) それぞれの思い。 1分半は探りあった。那須川が堀口の右のミドルをステップバックで外すと堀口も左のハイキックを6オンスのグローブでブロック。右のジャブはスウェーで外した。スピードや威力、間合いやタイミング。映像で見てきたものとは違う、そういうものの探りあいだ。残り1分を切って動きがあった。堀口が、空手の突きのような右ストレートを当てて突進。密着した状態から続けて右を打ち込んだのだ。いずれも浅かったが、左のミドルキックを那須川が腕でつかまえて両者がブレイクとなると堀口がニヤっと笑った。 「駆け引きが分かる。フェイントを入れたらこう来るとか。それが楽しかった」とは堀口の回想。 遠い距離から飛び込んでくるのが、キックボクサーにはない堀口の特徴だが、左フックから飛び込み、肩をぶつけて、続けて、突き刺すような右ストレート。那須川はバランスを崩した。 2ラウンドに入ると堀口対策に伝統派空手の選手とのスパーを行ってきたという那須川が、ガードを下げて、その構え。戦いの場を中央に戻す。残り2分になろうとするところで、那須川が度肝を抜かせた。空中で体を縦に反転させ左ハイを堀口の右側頭に浴びせたのだ。まるでブラジルの格闘技「カポエイラ」のようなトリッキーな蹴りだったが、堀口は、それを右腕でつかまえてダメージを半減させてみせた。 「効いたと思うが、顔に出さないので、いったらやばいか、怖さをかんじた、やっぱり強いんだなと」 那須川は、堀口のダメージをはかりかねていた。